第114回 夢のSTAP細胞
2014.05.01
1月末のことです。聞きなれないSTAP細胞という言葉を耳にしたのは。STAP細胞というのは、刺激惹起性多能性獲得細胞の英語の頭文字をとったものでした。動物の体細胞に刺激を与えて万能細胞化する、という研究結果が発表されたというニュースでした。
私は科学に疎いので、報道が加熱しているのを見て、これは凄い大発見なのだと受け取っていましたが、具体的にSTAP細胞がどう凄いのかはピンと来ないままでありました。これまで聞かされていたIPS細胞発見にも匹敵するできごとという印象です。報道でも、この発見はノーベル賞も夢ではないのではないかという煽りっぷりでした。
発見者は、理化学研究所チーム、ハーバード大のチャールズ・バカンテ教授、山梨大学の若山教授たち、ということになっています。
中でもマスコミの報道の中心となったのは、理化学研究所のチームリーダーであった小保方晴子さんでした。STAP細胞といえば小保方さん、というセット報道になっていたのでは?たしかに意外でした。「世紀の大発見」の中心にいるのが、このように若くて魅力的な女性だったということが。それからは、STAP細胞がどのような細胞か?という報道よりも、世紀の大発見をした小保方さんとは、どんな経歴でどのような女性かという報道ばかりが膨張していきました。
リケジョ(理系女子)と持て囃され、彼女の趣味や生活まで取り上げられました。研究実験の時は割烹着を身につけている。ムーミンが大好き。いつも笑顔を絶やさない様子に、私も小保方さんのファンになってしまいました。
ところが、3月の中旬になって、STAP細胞の報道に"あれれ?"の変化が現れたのです。若山教授が論文取り下げを他の研究者たちに呼びかけた時期からの急展開でした。それからSTAP細胞の真実より優先して、報道の矢面に立っていた小保方さんの粗探しが目立つようになりました。写真の使い回しや、論文内のコピペ疑惑やら。
報道の全てが、ワイドショー化しているなと思えてなりませんでした。ニュースのネタになりそうだと興味を惹きそうな部分だけを抽出して、持ち上げるだけ持ち上げて奈落に突き落とすような。あたかも小保方さん一人が捏造犯人のような扱いで。
でも、小保方さんファンとなった私は、まだSTAP細胞の真実は見えてない気がしてならないのです。
そんなある日。
朝方のことですが、仕事場のゴミを捨てに降りると、階段横に女性がうずくまっていました。近づくと女性は意識がないようです。
これは放っとけないと私は女性の肩を揺すりました。
「あのー。もし。大丈夫ですか?」
しかし、返事がありません。そこで、気が付きました。顔色こそ蒼ざめているけれど、若くて魅力的なこの女性は、小保方さんなのだと。
救急車を呼ぶべきなのだろうか?よりによってなぜこのような場所に彼女がうずくまっていたのかわかりません。しかし、このまま放っておくわけにはいきません。私は、彼女を仕事場に連れ帰りました。
酷い熱でしたが、私は必死で介抱しました。やがて、彼女はやっと意識を取り戻すことができました。
それから、私は小保方さんが元気を取り戻すことを祈りながら世話を続けました。そして、やっと立ち上がることができるほどに元気になったのです。
「あなたが私のことを助けてくれたのですね。ありがとうございます」
「いえ、いえ。気になさることはありませんよ。私は当然のことをやったまでですから」
「しかし、それでは私の気が済みません。何かお礼をしないと」
そう言うと、彼女は割烹着をどこからともなく取り出すと身に着けました。それからキッチンに立って何やら作り始めました。
しばらくして、彼女はお椀を私に差し出したのです。
「お味噌汁を作りました。召し上がってみていただけませんか?」
それは本当にいい香りでした。私には断る理由がありません。
「ありがとうございます。いただきます」
ひとくち食べると、何とも言えず美味しい。こんな美味しい味噌汁は食べたことがありません。そこで、よく見ると、味噌汁の実は見たことのない緑色の丸いものでした。それがいくつも入っている。そして、生きているかのように汁の中を動いているのです。その緑の丸いものが美味しいのだとわかりました。
「この、入っているものは何ですか?」
私が尋ねると小保方さんはニッコリ笑って、
「STAP細胞です。いかがですか?」
「えっ。STAP細胞ですか。やっぱりできていたんですねぇ。美味しいなあ」
そう言ったら、これは"夢"なんだ、と気が付き目が覚めました。
幸せな夢を見たなあ。