カジシンエッセイ

第137回 エッジのきいた......

2016.04.01

 ものを書いていると、いろんなタイプの注文を頂きます。長編の小説だと割に自由な場合が多いのですが。
 短編の依頼の場合は、反対に、いろんな制約があります。まず、枚数から入るのは当然ですね。指定された枚数で話をまとめあげなくてはなりません。これは、最低限の条件。そして、掲載される書籍に応じた話を組み立てる必要があります。主婦の人たちが読者層であれば、少なくとも秘境で魔物に襲われるような話は遠慮します。主婦の方々だったら、どんな話に感情移入して頂けるかな?と検討を重ね、違和感なく、かつ、びっくりして頂ける話を考えるようにしています。
 この間、人工知能を研究される学会の会報に短編を書いたのですが、これは結構難しかった。この雑誌は人工知能を専門に勉強、研究しておられる方々が読者なわけだから、人工知能については全く素人の私が専門的な話を書いても笑われてしまう!だが、人工知能がテーマの短編と条件が付いていると、その制約も果たさなくてはならない。無理なら断るという選択肢もあるのですが、私は出来ませんとは言いたくない。プロだという意識もありまして。で、書き上げましたが、人工知能の専門知識は全く無視したお話にしました。私は正直、科学知識ゼロの文系SF作家だと開き直っています。だから、惑星開発のときに惑星そのものに人工的に知能を与える話......ソラリス化というか......でっちあげました。それで人工知能......。
 で、他にも、短編をお受けするときは、条件がついてくる場合が多いようですね。テーマがついてくることとか。時間テーマで、とか、ミステリアスな雰囲気のものとか。
 そんな感じ枚数を指定して頂くと、一番ありがたいですね。
 それに、編集さんの好みでプラスアルファの要素が付いてくることがあります。
 泣ける話にして欲しいんです。
 感動できる話希望です。
 意外な結末でお願いできれば。
 いつも感動させることができているか、よくわかりませんが、できるだけご希望に沿えるように頭を捻っております。
 そんな中、最近頂いた注文で、テーマをお受けした後に編集の方が仰言いました。
「あのぉ。編集長からの要望ですが」
「はい。なんでしょうか?」
「エッジのきいた話を頼みますとのことです」
「はぁ?エッジですか?それ、どんなんですかねぇ」
 物書きのくせに馬鹿な質問をする奴だとお思いでしょうが、ピンとこなかったのです。
「私もよく掴めないんですが。最近言いますよね、エッジきいてる!って」
 電話を切った後に考えました。エッジって刃のことだよねぇ。エッジが効いてる?エッジが利いている?どっちなんだよ。
 エッジを調べてみました。サーフボードの先端とか剃刀の刃とか出ますが、どういう意味かうまく掴めません。刃が尖っているから、とんがった話なのかな?それともキレの良い話?わからない......。
 で、どうしたかというと、わからないままに短編を仕上げました。これなら尖っていて、キレが良いかなって。自分なりに精一杯。
 原稿を送ってしばらくしてゲラを戻して頂いたときに話しました。
「あのー。エッジきいてましたでしょうか?」
「ええ、カジオさんの今までにないタイプの話で、エッジきいてるそうですよ?」
 ???
 そんなわけでエッジがきいてるっていうのは、今でもよくわからずにいるわけですが、でも、注文をこなすことはできたんだ、とほっとしております。
 すると、さあ、なんでも来い。どんな注文でも書けてしまう気になってしまいました。すろと、来た、来た、......。
「キャラの立ったものを書いて頂けませんか?SFでも、そうでなくても構いませんから」
 そんな注文が入りました。
 は?また、わけわかんないことを。
 これも聞いたことがなかった。キャラというのはキャラクター、つまり登場人物のことだよなぁ。
 イメージを膨らませます。登場人物が魅力的で記憶に残るということを言っているのではなかろうか?あるいは鳥肌が立つような悪役とか、腹が立つような仇役とか。
 アニメ好きな知り合いが、確かに「キャラが立ってる」と言っていたのを聞いた気がします。しかし、注文でキャラが立ったものをと言われたのは初めてです。
「キャラが立った......仇役ですか?あまり、悪人は書けないのですよ」
 すると「エマノンなんて十分にキャラ立ちすぎですよ」と。
「ああ、なるほど」もちろん、わかったフリで答えました。
 エッジがきいた!キャラが立った!さあ、次はどんな理解不能の注文が飛び込んでくるのか?
 ええ。どんと来い!ですよ。

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