カジシンエッセイ

第149回 あれから一年

2017.04.03

 四月十六日で、あの熊本地震から一年を迎えるのですねぇ。
 あっという間だったような気もするし、永い永い時間を耐えてきたような気もするし。
 パニック映画ではよく目にしてきたような光景を実際に自分で体験してみると、これほど大変なことだとは思いませんでした。数ヶ月は極端に執筆量も減りました。今年度の確定申告をやろうとして、収入減に愕然としましたものね。我が家は半壊して仮住まいを。そして解体。
 周囲を見ていると、我が家の解体は早くやっていただいた方でしょうね。まだ、解体待ちのお宅がたくさんあるような気がします。私の仕事場は、熊本市の古町界隈にあるのですが、このあたりは戦災を免れた地域で古い町家も多い。だから、耐震性はまずありません。地震後、行政の調査があり建物の判定が行われました。緑色の紙が貼られれば安全ですが、古町はほとんど黄色と赤色。黄色は注意を要するもの、赤は危険。赤も「建物が傾き、全壊の恐れがあります」「屋根が落下する恐れがあります」でした。そんな建物が、今は殆ど消え去っています。次の建設にかかれず空き地のままになっているので、歩いてみると凄いです。あちらこちら歯が抜けたように空き地。
 あれっ。ここに建っていたのは黄色紙の家だったのに無くなっている、と思っていたらその家の方とばったり。「解体されたのですねぇ」と尋ねると「市役所の判定は半壊だったんです。でもね、修理の効く半壊と、とても住みようのない半壊があると思うんですよ。我が家は外見はそれほど酷いようには見えていなかったから半壊判定でしたが、内部はとても住めるものじゃなかったから。うちは住めない半壊」
 更地にはなったものの、次の家を建てる目処がつかないという方も多いことを知りました。
「地震保険に入っていたことは入っていたのですが、調査で半壊判定だと全額は出ない。半額しか出ない。火災保険の半額の半額。住めないんだから全額出してくれればいいのに。復興なんて夢の夢。若けりゃ返済能力あるからなんとか、と思うこともあるだろうけれど、この年齢だとねぇ」
「だから、いつまでも更地」と肩をすくめられました。そんなことを書いている私の仕事場の横でも解体が進行中。重機の音の中で仕事をしている気がします。
 歩いていると、震源地から遠く離れているのに更地が延々と続くことに気づきます。そこまでは何ら地震の影響を受けていないようなエリアが続いていたのに。何故か、突然に。つまり、そこを断層が走っていたということなのかな。被災の状況がひどいのは、震源地に近い位置だけに限ってはいないのです。
 それでも、震災から一ヶ月のインフラ壊滅からすれば、社会が正常なリズムを刻み始めたということは、よくわかります。震災地で生活する私たちも、世の中が元のリズムに戻っていくニュースを心待ちにしています。映画館が再開したと聞けば喜び、商業施設が販売を始めると知れば歓声を上げました。そして、熊本城の被害の甚大さには、泣きそうになってニュースを聞きました。
 JRも動かなかったし、すべての店が閉まっていた。道路も塞がれたし、橋も渡れなかった。水が出ない。電気も来ない。そして何よりも、闇の中で何度も襲ってきた余震。
 そんな話題は、最近は思い出したようにしか出なくなったみたい。そして、あのときの時間の経過は信じられぬほど速かった、と今になったら思えるのです。というよりむしろ、あれは現実のことだったのだろうかと思ってしまうのですねぇ。
 さて、私は熊本市の中央区と西区の境に住んでいるのですが、今でも熊本は不定期に地震が続いています。しかし、最近は一年前の益城や南阿蘇の震源ではなく、熊本市西区というのが多いのです。
 これは、私にとって不安なことではあります。地下の歪みは今、我が家の下あたりに移動してきているのではなかしら、と。
 一年を迎えて、ほっと出来ている方は熊本には皆無だと思いますよ。誰もが大きい小さいはあるでしょうが、心的外傷後ストレス障害を受けてしまっているのですから。余震は、これからも数年起こり続ける可能性が言われていますし。だから、こんな不安は当然でしょう。しかし、私は熊本が好きだから、何が起こっても受け入れるんだろうな、と思います。
 よく大絶滅のことを考えます。
 地球は生命が発生してから五回の大絶滅を体験しているのです。ほぼ二六〇〇万年毎に。そして一掴みの種が生き残り、繁栄し進化するということを繰り返している。
 もし、次の大絶滅があれば原因は何であれ人間はいなくなるでしょう。
 受け入れるしかないではありませんか。その前にも、いくつもの人間という種の破滅の機会はあるでしょう。
 そんなことを考えたら、余震の不安よりも、今何が出来るかを考えて生きたいものですよ。
 次の一年で、より復興が進むように。

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