第150回 きな子の顛末
2017.05.01
きな子というのは、わが家のメス猫。それが突然の失踪。二月二十八日のこと。
「きな子が昼過ぎからいないよ」と娘から夕食のときに聞いたのですが、そのときは深く考えませんでした。これまでも朝帰りすることはときどきありましたからね。
「そのうち帰ってくるんじゃないか?」と私は言っておりました。
翌日、翌々日。孫まで「変だ!こんなに姿を見せなかったことないよ」と。そう言えば姿を見ない時間が長すぎる。きな子は不妊手術をしているから発情して駆け落ちしたわけでもないだろうし。心当たりの近所を捜しましたがやはりいません。
「近所の変質者がきな子を部屋に閉じ込めているんじゃないか?」「保健所と警察に届けておくべきだよ」
それで失踪した日のことを家族で必死で思い出しました。わが家は今、建替え中で業者さんが入れ替わりにやってきます。そんな業者さんの軽トラックに乗っていて移動してしまったんじゃないか説が浮上。
「あの朝までは、いたんだから」きな子は好奇心の強い猫で、前にもトラックに飛び乗ったところを慌てて下ろしたことがあります。その日、午前中工事をしていた電気配線のトラックかも、と。娘が業者さんに連絡をとりました。西まわりバイパスから三号線で南下。そして次の工事現場の宇土へ。
娘はパソコンで「きな子手配書」を作成。コピーして近くのコンビニや電柱、スーパーなどを回りました。
それが失踪後一週間目ですか。私もツイッターとフェースブックで情報提供をお願いしました。皆さんに心配していただき、アドバイスをいただきました。全国津々浦々まで情報は拡散し、三千二百リツィートされています。それでも手がかりがなかったので、娘は地方新聞に猫捜しの広告を出したほどです。
広告が有効だったのかどうかわかりませんが、電話は数件かかってきました。宇土の方から「うちの裏で、きな子~、きな子~って叫びよったのはおたくだろ?見つかるとよかな~」というお爺さん。娘は宇土まで捜しに行ったらしい。「西まわりバイパスで一昨日、よう似た猫ば見ましたばい」
三月十日を過ぎると、さすがにもう駄目かも......と弱気になりましたが、「うちの猫は一年後に帰ってきました」というツイッターの励ましの書き込みを見ると、諦めちゃいけない、と。
そして三月十三日の午前四時半。近くの花岡山に散歩に出かけました。私にとって花岡山へ行くのは日課のようなものです。最近は山頂にポケモンのジムがあるので、毎朝私のポケモンを散歩がてらに乗っけに行くのです。すると、山頂近くで、何かが走る。まさか、と思いました。ひょっとして。
「きな子!」と叫ぶと、影は立ち止まりました。続けて何度も叫ぶと走り寄ってくるじゃありませんか!!
世の中に奇蹟があるなら、まさにこれだと思いました。足にまとわりつくきな子を抱き上げて、慌てて娘に電話して鳴き声を聞かせましたよ。
急いで連れ帰ると家族は皆、外まで出迎えに!そして記念撮影。SNSでの報告。
娘は捜索依頼書を、見つかりましたの報告書に差し替えました。「猫見つかりました!三月十三日午前四時半、花岡山にて発見しました!!父がたまたま早朝にポケモンGOをしに花岡山に行き、奇蹟の遭遇を果たしました!!協力していただいた皆さま、祈っていただいた皆さま、本当にありがとうございました!!」
すると、ツィッターのリツィート、及び"いいね"は、なんと一万を突破。
目を疑いました。その日の午後あたりから、仕事場の近くで声をかけられるようになりました。「猫ちゃんよかったですね」「きな子ちゃん、よかったですね。元気ですか?」「ラジオできな子ちゃんのことを言ってましたよ」知り合いだけではなく、見知らぬ人たちからも声をかけられて。
それだけじゃない。遠くに住む親類から、「YAHOOニュースで見ました」「ねとらぼに真治おじさんの猫が出てる!」「MIXIニュースで知りました」
もう何がなんだかわかりません。
翌日、東京の編集の方とゲラのやり取りがあったのですが、「きな子ちゃんが見つかったそうですね。安心しました」とファックスに。
日曜に花岡山山頂のポケモンジムを攻めていたら、見知らぬ方から突然声をかけられました。「ひょっとしたらカジオシンジさんですか?」なぜわかるんだあ!
やっと落ち着いたかな、と思ったら極めつけが。
中国のSF雑誌「科幻世界」さんから成城で開催されるSFイベントへのお招きが。そしてその招待状の末尾に「きな子、見つかって本当によかったですね」と。
きな子!お前は世界的に有名になっているぞ!!!
で、きな子は今どうしているかというと、いつものソファーの上で目を半ば閉じて眠そうに、騒ぎなどどこ吹く風といった表情です。
ある日、突然にNASAから連絡が。
「太陽系外の、未知の超知性と覚しき存在から謎のメッセージが着信しました。解読分析を続けておりましたが、やっと判明しました。あなた宛のメッセージのようです。《キナコ・ノ・ハッケン・ヲ・シュクフクスル》おわかりでしょうか」と。
んなこと、ないか。