カジシンエッセイ

第151回 「ディ・トリッパー」出るよ

2017.06.01

 こちらではお知らせしておりませんでしたが、四月に新刊が出ました。
「たゆたいエマノン」です。今回は長編ではなく五つの短編から成ります。ご存知とは思いますが、エマノンという美少女が主人公のシリーズです。三〇億年という地球生物の先端にいて、その記憶だけを代々引き継いでいる存在ですが、本書には、新しい趣向を取り入れました。
「おもいでエマノン」(新装版)に収録されている「あしびきディドリーム」に登場するヒカリというキャラクターです。エマノンと同じく美少女ですが、エマノンとは異なった特殊能力を持っています。
 ヒカリはアトランダムに時間を跳躍できるのです。
 実は「あしびきディドリーム」を書いていたら、ヒカリのことを考えるようになりました。エマノンも彼女ならではの苦悩を抱えているように、ヒカリもさまざまな疑問を持っているに違いないと。そして、エマノンとヒカリが実は親友だと設定した時点で、二人はこれまでどのように関わってきたか、と。すると、いくつものエピソードがするすると浮かび上がってきたのです。不思議なほど容易でした。
 エマノンは過去から未来へ悠久の時を旅していて、ヒカリはアトランダムに時をジャンプする。エマノンが縦糸ならヒカリは横糸になり、物語が一枚の布として織りあがっていくと言えばいいのかな。
 このヒカリが、五編中三篇に登場し、それぞれの作品を微妙にリンクさせています。
 ひょっとして、これからのエマノンにも登場するかなぁ、とぼんやり思ったりもします。
 そして今月も、新刊が出る予定です。
 キノ・ブックスから長編で「ディ・トリッパー」というタイトルなのですが。
 タイトルを聞かれて、おや?聞き覚えがあると思われた方。
 正解です。
 私も若い頃はビートルズが大好きだったのですよ。この曲も彼らが歌っていました。確か「恋を抱きしめよう」の裏面に入っていたはずです。曲も結構気に入ってました。
 その曲のタイトルを拝借いたしました。
<ぼく>が夢中になった女の子は<ぼく>をその気にさせただけの日帰り旅行者で片道切符の女の子だった。彼女が相手してくれたのは一晩だけ。
 みたいな歌詞ですね。記憶に間違いがなければ、ジョン・レノンの発言では、ドラッグでいっちゃってるのもディ・トリッパーの解釈でアリだということでしたよ。ヒッピー全盛期の時代だから。
 で、私の小説の中ではディ=時間をトリップ=旅行する機械というコジツケです。つまり、タイムマシンですね。
 ただ、これまでの小説に出てくるタイムマシンとは少し違います。私の小説の中には、クロノス・ジョウンターなるタイムマシンが登場します。過去の悲劇的な出来事を防ぐために跳んだりするのですが、よく考えると、過去の自分と飛んで行く自分と二重存在になるのです。これは大きな矛盾になるのですよね。
 しかし、ディ・トリッパーでは、この矛盾は解消されています。ヒッピーがグラスを喫ってトリップしたように、この小説の主人公の女性も過去にトリップします。ただし、彼女の心だけ。
 過去の自分の肉体に精神だけが飛び込むのです。それであれば、二重存在の心配がなくなるのでタイムパラドックスが発生する率も少ないというわけです。
 なぜ、彼女は過去にいきたいのかというと、彼女の夫の突然病死で、心が折れてしまっていたのです。
 夫を愛していた彼女は、もう一度、夫に会いたと願うのです。
 もう一度、夫と話したい。側にいたい。その願いを叶えるにはディ・トリッパーを使うしかない。
 しかし、ディ・トリッパーを使うには、守らねばならない約束がある......。
 そんな話です。
 ふっ、と思いついたタイトルなのですが、そう言えばビートルズの曲名をタイトルにした本はベストセラーが多いなあ、と気がつきました。
 偶然かな?すぐに、いくつかの本が頭に浮かびました。
 いいぞ。そういうジンクスがあるのなら、乗っかってみようじゃありませんか。うまくいけば......。
 いや、ひょっとしたらビートルズの曲名をつけてベストセラーにならなかった初めての本になったらいやだなあ。
 祈るしかありません。神さま、仏さま、ジョン・レノンさま。
 皆さま、よろしくお願いします。

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