第173回 嘘つき村のエイプリル・フール
2019.04.01
太郎が花子から聞かさせたこと。「明日はエイプリル・フールよ。太郎は嘘ついたことある?」
「いいや。ない」と正直者の太郎は答えた。花子は馬鹿にしたように笑った。
「じゃあ、せいぜい嘘をつく練習をすることね」
太郎はエイプリル・フールとはどんな日なのか調べた。年に一度だけ嘘をついても許される日のことだった。嘘をつくのは悪いことだと思う。花子はいつも嘘をついていることを思いだした。太郎の隣村に住んでいるのだが、その花子の住む村は嘘つき村といって住民全員が嘘つきなのだ。
太郎が住んでいるのは正直村なので、嘘などついたことはない。
よく村はずれに行くと旅人に尋ねられることがある。「この村は嘘つき村ですか?」と。太郎は「いいえ、ちがいます」と答える。すると旅人は納得して頷いている。そこに花子がやってくると彼女にも尋ねている。「この村は嘘つき村ですか?」「はい、そうです」と花子は平気で嘘をつく。
どうも太郎の村と花子の村が嘘つき村かそうでないかはクイズの問題にもなっているようだ。
夜が明けて翌日になった。太郎はわくわくして村の外に出てみる。旅人に「この村は嘘つき村ですか?」と尋ねられたら「そうですよ」と答えてやろうと。なにせ、エイプリル・フールなのだから。嘘をついても誰に叱られることがない。しかし、誰もやって来ない。
花子が嘘つき村から、にたにた笑いながらやってきた。そして太郎に声をかける。
「私をだます話を思いついたの?」
う・う・う...そう言われると太郎は何も出てこない。嘘をつき慣れないから嘘がが出てこない。しかも花子は嘘つきの達人である。そんな花子から、早く嘘をつきなさいと言われても、直ぐにバレてしまいそうではないか。
おまけに太郎はいつも花子に騙され続けているのだ。嘘つきのキャリアが違いすぎる。花子が嘘をつくとわかっていても、巧妙すぎて嘘が見抜けず騙されてしまう。
「今日は、狼が出没しているんだって。もうすぐ襲いに来るって話よ。私もちらっと狼の姿を見たから」と太郎を脅してくる。まさに"狼が来る"でそんな嘘をついてると誰も信用しなくなる、という典型的なやつだ。そう思って太郎は花子に言う。
「そんなの嘘だとすぐにわかる。下手な嘘はやめろよ」
すると、花子はしらばっくれることなく嘘を認める。
「さすが太郎君ね。すぐに嘘を見抜いて頭いいのね。噂どおりだわ」
そう続けられるとさすがに太郎も悪い気はしない。「そんな気がしただけだ。噂どおりって何だよ」
「いや、太郎君は頭よくって素敵って皆、村の女の子が噂してるわ。一番きれいな少女いるでしょ。あの子も頭のいい太郎くんが大好きだって。声かけたらきっと大喜びよ」「そうだったのかあ!あの子が!!」
太郎が少女にその気になって声をかけたら、頬を叩かれて凄い剣幕で罵られて、初めて騙されていたと気づく。
また騙されたと太郎は悔しがる。どこに花子の騙しのポイントがあるか、見破らなければならないと思ってはいるのだが、花子のほうが一枚上手のようだ。
今日も太郎は考えたが、嘘が思いつけなかった。悔しくて、太郎は花子に言った。
「今日みたいなエイプリル・フールは嘘つきの花子はとんでもない嘘をつこうとしているんだろう?」花子は首を横に振る。
「とんでもないわ。実は今朝、長老が言ったの。世の中はエイプリル・フールは嘘をついてもいい日だが、我々の村では本当のことしか言わない日にする。嘘をついちゃなんねえぞ、って」
「じゃあ、今日は嘘つき村は嘘をつけないのか!」と太郎は驚く。花子は頷く。すると、太郎は嘘つき村のきれいな少女のことを思い出した。あの子も今日は嘘をつかないんだなあ。ふと、花子は言う。「あの美少女のこと好きでしょ」「いいや」と太郎は平気で嘘をつく。「ふうん。まあ、いいわ。でも、あの子は内心は太郎君のこと好きみたいよ。で、あの娘は険ヶ岳の中腹の泉にいる銀色イモリの黒焼きが食べたいと寝言のようにいつも言ってる。太郎君がプレゼントしたら、あの娘は太郎君に首ったけになるわ」「ほんとか?」「ほんとよ」
険ヶ岳をよじ登り、七難八苦の目に遭って太郎は銀色イモリを捕まえて黒焼きにした。元は銀色だったかわからなくなったが、それでも喜んでくれればと、やっと持ち帰り、嘘つき村の美少女に黒焼きイモリを差し出すと、美少女はまたしても怒り狂い、棒で太郎をひっぱたいた。「私がイモリ大嫌いなの承知でこんな嫌がらせをしたのね!」
ほうほうの体で逃げ帰った太郎は花子に文句を言う。「よくも、騙したな。今日は、嘘をついちゃいけないと長老に言われているだろ」
すると花子はペロリと舌を出して言う。
「あー、あれは嘘よ。だって、本当のエイプリル・フールよ4月1日。明日なのよ。騙される太郎君が悪いのよ」
太郎はもう何がなんだかわからない。