カジシンエッセイ

第23回「たわけの食卓」

2006.10.02

これは珍味!という食べ物で何を連想しますか?
フォアグラ、トリュフ、からすみ、フカヒレ、熊の手、‥‥といろいろ思いつくのですが、私的に真っ先に思いつくのが、‥‥キャビアです。
初めて食べたのは、飛行機の中。で、エコノミークラスでヨーロッパへ飛んでいこうというとき、なぜか私の席に先客が。ダブルブッキングだったのです。それで、スッチーに案内されたのが、“ファーストクラス”。そこでは、さまざまな無料サービスが受けられて王様気分になれるのですが、食前に出されたのが、キャビアだったのです。
真っ黒で小さな粒々。薄切りパンの上に微塵切りした茹で卵とオニオンを乗せ、キャビアをこってりと盛り、レモンをちょいとかけていただきました。飲み物はシャンパンです。いやぁ、うまかった。
こうしてキャビアは、私の好ましいおもいでの一つとして脳裏にしまい込まれました。

その後、高級食材店などで販売されているキャビアを見たりもしたのですが、あまりの高額な値札に圧倒されて、とても手が出なかったのです。一瓶が一万円!!
でも、キャビアに関する知識は、それから徐々に私の中で蓄積されていきました。キャビアはチョウザメの卵であること。カスピ海が産地であること‥‥ああ、もう一度心ゆくまでキャビアを食べてみたい。
さて、数十年が経過して、奇跡が起こりました。
モンゴルから帰国された方が、キャビアを持ち帰ったから、食べてくださいと。なんでもモンゴルではキャビアが安価で手にはいるらしい。だから、ドカーンと購入されて!
行きつけの店で何人かで食してみました。うわぁ、とにかく食べきれないほどのキャビアです。
まず、スプーンですくって食べる。うまい。この味、この味。なんと数十年前のファーストクラスの頃にタイムトリップ。正統なキャビアの味わい方です。
よく見ると、黒に近い濃緑色。しかも粒が大きい。上物なのであります。
誰かが「キャビアで茶漬けをやってみよう。本で読んだことあるから」と言い出しました。
「こんなときじゃないと、やれない」
炊きたてのご飯の上に、キャビアをてんこ盛りしてお茶をかけます。「もっとキャビアを足さないと淋しいかな」キャビアを足します。
うまい!キャビアの茶漬けがうまいというのは真実だった。黙々とかきこみました。
でも‥‥、箸を置いて思いました。これって値段をつけるとすれば、いくらかかるのだろう。一万円の茶漬け?
ところが、まだ、キャビアがあるんです。
「オムレツにしよう」
半熟状のプレーンオムレツの中に、またしてもキャビアをてんこ盛り。うわぁ、絶品だぁ、珍味だぁ。ベロがバチあたり。
皆、会話もなくホムホム食べました。こんなオムレツ、これから一生食えないだろうなと考えながら。
それでも、まだ、あるんです。
「よし、もっと、たわけた食べ方をしよう」
まだ、炊きたてのご飯があります。それでおにぎりを作る!しかも中味はたっぷりのキャビア。贅沢この上なしです。
これも。珍味。でした!!!
「いくらのおにぎりよりウマイ」と誰かが。
とにかく、キャビアだけで満腹した初めての体験でした。まさに、バチあたりのたわけの宴です。真剣に、終末が来そうな気がしたほどです。至福。

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