カジシンエッセイ

第28回「これも取材だ!」

2007.03.01

書いている話が、幻想的なもの、現実離れしたものが多いので、よく「取材しなくても、頭の中で話を組み立てて書いてしまうんでしょう?」と言われれますが、そうではありません。
メインになるアイデアが荒唐無稽な法螺話が多いものですから、読んでいてハナっから「嘘だろう。ありえねぇ」と言われないように、ディテールについては、できるだけ嘘のない描写をしたいと心がけています。
大きな嘘をつくためには、小さな部分はできるだけホントらしく。
以前のように徹頭徹尾、舞台が宇宙という設定であれば、図書館の調べものだけで済ませることができるのですが、今は傾向として時代設定を”現在”とすることが多いので、知らない環境や場所を描いたり、あまり縁のないお仕事を知りたいなと考えたら、こりゃ、もう、取材するしかないわけです。

「黄泉がえり」のときも、いろんな方に取材しまくりました。
新聞記者の方に会って、「このような状況だったら、どういう社会反応が考えられますか?」とお訊ねして、自分が考えている社会反応を話し、見解を頂いたり。市役所の職員の方にも、「死者が生き返ってきたとき、申請のやり方はどうなりますか?」と質問したり。
最初は、そんな質問に呆れかえられました。
「そんなことは、ありえないでしょう」
「もし、ありえたらと仮定してのお話なのですが」
「でも、ありえませんよねぇー」
それでも、いろいろと質問の形を変えたりしつつ、取材を進めます。たぶん、そんな戸惑いも、「使える!」と思ったら作品の中で活かしました。
三十代になったくらいの女性たちのモノの考え方が描写で必要になると、それも取材です。知り合いに、いろんな職業の、いろんなタイプの女性を集めて頂き、本音を聞かせてくださいと、用意した質問をぶつけます。
こんなときは、かなり楽しい。
自分の顔がヒヒ爺の笑いになっていないかだけが心配です。
お医者さんの取材も多いなぁ。登場人物の一人が難病という設定にすると、架空の病名であれ、治療法に嘘があってはいけないから。
で、こういうことで、取材費は、よくかかります。お話は、素面でうかがうよりも、一杯飲みながらだと、とんでもない方向にジャンプして、思いもよらぬ収穫が得られる確率が高くなります。本音も、ぽんぽん飛び出し始めますし。
でも、協力して頂いた方の中には、立場上協力して頂いたことを明かしてはならない方もいるんです。そういうときは、取材費の領収書には書き込めません。
で、一番最近の取材はパチンコ屋さん。
長編の登場人物の一人が、パチンコ依存症という設定で、パチンコ屋を訪れるとこを書こうとしたのですが……。
私は、パチンコをやらないので、店内の様子がよくわからない。よくわからないと、書けない。
こりゃあ、行ってみるしかないか。登場人物が入店するのと同じ時刻に入ってみました。
ひえぇぇぇ。すごい。凄まじい音量とタバコの煙。やはり、来てみないと雰囲気はわかりませんでした。
しかし、平日の昼間というのに、この人たちは!おばちゃんが、こんなに多いとは!
自分でも、パチンコをやってみないとわからない。しかし、玉の買い方がわからない。
台の横で販売機を見つけたのですが……えーと、これ取材なんだよ。お店の人に尋ねました。
「あのー、領収書を出して頂けますか」
お店の人、私の顔を見て、ホント不思議そうな顔で答えました。
「領収書ですか?」

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