カジシンエッセイ

第34回「台風カレー」

2007.09.01

最近は、地球温暖化の影響だろうか?台風の威力が以前より増している。予報では風速四十メートルなぞあたりまえ。最大瞬間風速六十メートルとか報じられると、いったいどうなることやらと恐怖に震える。
まったく、そんな風速は、想像もつかない。
ネットなどの書き込みを読んでいると、何故か、台風が接近すると「エッ。進路が、こちらに向かってるって?急いでコロッケを買っておかなくては。コロッケ、コロッケ」というのが、増えてくる。
台風襲来に備えて、停電しても食べられるコロッケが、食糧備蓄の代名詞になっているらしい。
ところで、私だが、台風のときは、飛ばされそうなものを補強したり、片付けたり。
そんな作業が終わったら、やることがなくなる。台風が来たら外に出ることもかなわなくなるなぁ、とレンタルDVDを借りに行ったり。借りてきた後で、あ、停電になったらDVDも見られないよなぁ、と気付く。
それで、恒例になりつつある、台風前の行事。

身を持てあまして、自分でカレーを作るんです。
市販のルーを一切使わない、わがまま、我流の男の料理。
おいしくて、自分で納得のいくカレーを食べたい。時間をかけて作りたい。コロッケなんて、どうでもいい。うまいカレーを食べたい。
ご飯さえあれば、たとえ停電になっても、山歩き用のガスバーナーでカレーをあっためれば、いつでも食べられる。しかも、時間を置いた方が、味が落ち着いてくる。
そんな勝手な理由付けをしてカレーを作ります。
台風迎撃準備を始める前に、スーパーに行って牛スジやら馬スジやらの安い肉をたんと買ってきます。ホルモン用の肉でもOK。そして、鍋の中に固い牛スジ肉を放りこんで、ひたすら炊き続けます。その間は、補強や片付けに集中するのです。
終了したら、厨房に再び立つ。
玉ネギを三個ほどスライスして、バターでひたすら炒める。この工程がとにかくつらい。しゃもじで、延々と掻きまぜながら炒めるのだけれど、すべての玉ネギが焦げ茶色になるまで。
もう、ここで暑さで涙と汗だらけです。汗が鍋の中にしたたり落ちますが「塩気だ、塩気だ」と一向に気にしません。途方もなく長い時間に感じます。それにトマトの熟したのを一個分。さらにカレーパウダーを入れてほどよく炒めて、朝から煮込んだスジ肉の汁をドウッと入れる。それから後は、ガラムマサラを入れる。リンゴを擦ったものや、ヨーグルトや、味噌や、お好み焼きソースやら、とにかく、味見を続けながら、冷蔵庫内の肥やしと化していたものは、何でも入れる。
それから後‥と書いたがフェイクジャズの演奏に似ているような気分。だが、そのあたりから、家族が厨房に入ってこないように。
一度なぞ、カレーにプルーンジャムを入れているのを娘に目撃されて、非難されて以来。
だが、カレーって何を入れても、それなりの味になってくれるのが嬉しい。唯一、入れないのが、小麦粉だけ。あとは、何でもあり。
煮込んだスジ肉もとろとろになり、絶妙カレーだと、自画自賛する。
あとは、台風がうまく逸れてくれることを祈るばかりなのだが。
今年は、何回カレーを作らなければならないのだろうか?
それだけが心配だ。

カテゴリー:食に夢中

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