第42回「四つ葉のクローバー」
2008.05.01
保育園に行っている孫が、あるとき、ふと私に訊ねてきた。
「おじいちゃん。四つ葉のクーバーって知ってる?」
ああ、知っているよ、と答えると、孫は、
「ボク、四つ葉のクローバー欲しいなぁ‥‥」
「どうして?」
「四つ葉のクローバーを持っていると、シアワセになるんだって」
どうも、保育園で友だちから、そんな情報を仕入れてきたらしい。
「ボク、シアワセになりたいから、四つ葉のクローバー欲しいんだよ」
「クローバーって、どんな草か知っているかい?」
「知らない」という孫を連れて庭に行き、クローバーを見せる。
「ほら、葉が一、二、三。三枚しかないだろう。四つ葉のクローバーって珍しくて、なかなかないんだよ」と説明してやった。
しかし孫は「でも、欲しいなあ」という。
そのとき、私の脳裏では自分の幼い日のある出来事が妙に鮮明に浮かび上がってきた。
私は小学一年生。
祖父は熊本城近くの国立病院に長期入院していた。私が祖母に連れられてお見舞いに行ったときのこと。私も、その年齢で絵本に載っていた四つ葉のクローバーを見てみたいと憧れていた。だが、どんなに探しても見つけることができずにいた。
だが、そのとき、国立病院の中庭でクローバーを発見。
あわてて、よく見ると四つ葉のクローバーがある。驚喜してあたりを見回す。あれほど探してもなかった四つ葉のクローバーが!
こちらにも、あちらにも‥‥なんと四つ葉のクローバーだらけ。
四つ葉。四つ葉。見渡す限り。
とった。採った!
病院に入って得意げにそれを見せていると、看護婦さんがやってきて、どこで四つ葉のクローバーを採ったのかを訊ねた。
場所を言ったら‥‥。
「そこは、薬品を色々捨てるとこなんです。そのクローバーは、すぐ捨ててください。薬品で異常を起こしているんですから」
そりゃ大変と、祖母にその場で捨てさせられた。
夢を壊されて。
それから四つ葉のクローバーを見ると、そのときのことを思い出してしまう。
四つ葉のクローバーは、突然変異のクローバーなのだと。
そのときは、孫は、四つ葉のクローバーはなかなか見つからないものだと、納得してくれたようである。
その後、上京した折、ファンの方からひょんなことで四つ葉のクローバーを頂いた。
帰熊して、早速にその四つ葉のクローバーを孫に渡した。
「四つ葉のクローバーを欲しがっていたよね」
「うん」
「東京で頂いてきたよ」
「ちょうだい。ちょうだい」
孫は、すぐに四つ葉のクローバーの入った封筒を開けた。
「それが四つ葉のクローバーだよ」
「‥‥‥‥」
孫は、ぽかんとしたまま、反応がない。もっと喜ぶかと思ったのに。あれほど欲しがっていたはずなのに。
予想と違っていたのだろうか。
「よかったね」
「‥‥‥‥」
「葉が四枚あるだろう」
いち、にぃ、さん、し、と数える。
「うん‥‥‥」
どうも、孫は、ミスリルでできたエクスカリバーのようなものを想像していたのではあるまいか、と思う。
「よかったね。また、封筒に入れておきなさい」
「うん」
しばらく後、テレビゲームをやっていた孫と話す。
「四つ葉のクローバー手に入れて、よかったねぇ」
孫は、納得できないようにウンとうなずく。それから言った。
「でも、まだシアワセにならないよ」