第56回「孫の心配性」
2009.07.01
「人食いバクテリア」ってのがいるって話を、最近、久しぶりに聞きました。
いったい、どんなものを皆さんは想像しますか?
私だったら、何となく1950年代末のアメリカのモノクロのモンスター映画であります。
形の定まらない何やらぐねぐねしたものが突然現れて、人間に襲いかかる。人間は全身が血の色をした半透明バクテリアに覆われて、悲鳴をあげながら溶かされていく。
そんな光景。
誰が、このような恐怖のバクテリアの存在を思い出させてくれたか、というと、小学2年生になったばかりの孫であります。
かなり特殊な子供で、飛行機がダメ。私と同じ高所恐怖症。だから、東京ディズニーランドには行きたいものの、飛行機には乗りたくないというジレンマに悩んでいるような子です。
何故、人食いバクテリアの話が出たかというと……。
「夏は、おじいちゃんが海水浴に連れていってやろうか?」
そう言ったところ、孫は「いやだ。海に行かなくていいよ」
その理由が、「人食いバクテリアが海にいるから」というものだったのです。だから、私は同時に脳裏に「怪獣ウラン」やら「ブロブ」やら「人喰いアメーバーの惑星」の映像が思い浮かんだわけです。
孫によると、その人食いバクテリアにやられると、みるみる足が腐れてしまい、死んでしまう、ということで。
「なんで、人食いバクテリアのことを知ったの?」
「テレビでやっていた。海にいたりするんだよ」
あわてて、パソコンで検索をかけてみました。あ、ホントにいるんだ。人食いバクテリアは。人食いバクテリアは、そう呼ばれるだけの急激な症状の進行があるという。
劇症A群レンサ球菌感染症。
それに、熊本でも最近、発病例があったらしい。
「だから、海水浴はしない」
そう言い切ったのであります。
それに、どうも、自分の思考内で孫はいろんなケースを想像している。
「え。船はいやだ。沈んだら、泳げないから」
自分の子供の頃は、どうだったっけ。そこまで想像していたのか、はなはだ、疑問だけれど。
気がついたことがあります。
それは、孫が喜んで見ているテレビ番組の傾向であります。
ドキュメンタリーの科学もの。そして食い入るように「ホントは怖い家庭の医学」を見ているのであります。
つまり、テレビに感化されて、孫はけっこう心配性になっているのでは、と思ったりしています。
仕事を終えて帰宅すると、孫と一緒に家庭菜園に水をやります。
それから、孫の横に座り、宿題をやるのを見届けます。
先日も、そうしていたわけですが。
その日も宿題は終盤にさしかかり、最後のプリントの漢字をやっているので、私は安心して、孫の宿題の進行を眺めながら、焼酎のロックを作り、チビチビと舐めておりました。
それを孫はチラチラと横目で見てはいたのですが。
突然、漢字プリントの一番下の空欄に何やらを走り書きしている。
何をそんなとこに書いているのだ……と見守っていると。
こう書いてありました。
“おさけののみすぎです。
からだを休目ましょう”
私は眉をひそめて訊ねました。
「これはジィのことか?」
そう訪ねると孫は大きくうなずきました。
「また病気するよ。おじいちゃん」
実は2月に入院したという経過があるのですが、孫はしっかりと、そのことを憶えているらしい。
私は、しっかりと孫に言いました。
「“からだを休目ましょう”じゃありません。“体を休めましょう。”めの漢字の使い方が間違っています。書きなおし」
孫の心配性は、なおってくれるでしょうか。心配であります。