カジシンエッセイ

第57回「ミルクセーキ」

2009.08.01

子供の頃の夏のおもいで、というと、思い出されるのはミルクセーキ。
そう。今回も、「あれは美味しかったあ!」のいやしんぼシリーズです。
これだけ暑い日々だと、ふとミルクセーキ飲みたあいと思うわけです。
誤解しないで頂きたい。カフェで出されるエッグノック風のものではない。
また、ファーストフードで供されるアイスクリームと牛乳をシェークしたものでもない。
ミルクシェークではなく、あくまでもミルクセーキであります。
私が食べたいのはタマゴと牛乳、シロップにバニラエッセンスを加え、それにかき氷と茶筒に入れてシェークしたもの。
昔から熊本でミルクセーキといえば、これと決まっていた。
ところが最近はさっぱり見かけなくなった。喫茶店でミルクセーキとあって喜び注文すると、エッグノックに氷を浮かべたものを出されて何度がっかりしたことか。
倉敷の美術館横の喫茶店で数年前に口にしたのが最後だったかなあ、と。
そう昨年の夏はミルクセーキ食べたいよ熱に侵されていたのであった。会う人ごとに「ミルクセーキ食べさせてくれるとこ知らない?」と訊ねまわる。

一度など下関の荒戸市場近くのうどん屋でミルクセーキの昔ながらのやつを食べさせてくれるそうです」という情報を頂き、JRに飛び乗りました。門司港に到着後、船で下関に渡り、下船すると一目散。
期待に胸を膨らませて、炎天下、そのうどん屋を目指す。もうすぐ。あの角を曲がって。
着いた!
と思ったらシャッターが。
その日は日曜日だったのですが。
日曜は店休日。
聞いてないよお。トホホだよ。全身から力が抜けてしまいました。はるばる熊本から、下関まで訪れて。
これで終われば、何とも救いようのない私は、とんだ間抜けであります。ところが、ベラ夫君の私はミルクセーキを飲みたいよ!と会う人ごとに言いまくっていたので、奇跡の逆転が待っていたのです。
甲佐町で「おひさまコーヒー」をやっている若旦那から連絡が。
自分なりにミルクセーキの作り方を試行錯誤の上に極めたから試して欲しい、と。
それを聞いた私は仕事をうっちゃらかしにして駆けつけましたよ。
ええ、私、いやしいですとも。
若旦那、待っていてくれてすぐに作りかかってくれました。聞くところによると、何度も試作された挙げ句らしい。
グリーンコープの牛乳を凍結させ、それに練乳を加える。
タマゴは某無農薬野菜を作る農家の放し飼いの鶏の黄味。それにバニラシロップ。
砂糖は使いません、と。
それをスムージーに入れると……できました。
究極のミルクセーキ。
濃厚だが甘すぎず上品で氷のきめが細かい。
「うまい」
思わず叫びました。子供の頃の美味しかったミルクセーキの記憶を超えているよ!
「これ、商売にしたら、絶対に大人気になる。保証します」
しかし、若旦那は肩をすくめました。
「いや、熊本の昔のミルクセーキの再現で採算を度外視してこさえてみたんで、実際に、お客さまに提供しようとしたら、とんでもない金額になってしまうから無理ですよ」と。
だから、今でも若旦那がこさえたミルクセーキの味は思い出すんですが、あれは私にとっては、真夏の夜の夢のようなできごとに思えてならんのです。あれは甲佐町の田園で狐狸に欺されたのではなかったろうかと。
しかし、うまかった。
さて、話は、普通ならここでめでたしめでたしのエンディングを迎えるわけですが、そうはならない。大逆転が、その後待っていました。
あまりに、皆にミルクセーキ飲みたい。誰か知らない?と吹きまくっていたので、行きつけのお蕎麦屋さんで「長崎風ミルクセーキ」を作ってもらいました。
味は非常に近いが、氷のキメが熊本のそれよりやや荒い印象かなあ。
娘は、和三盆糖のアイスキャンデーでミルクセーキをこさえてくれました。これはこれでなかなか美味しい。
そして、なんたるシンクロニシティ。家族で雲仙に旅行したとき(しかも冬の12月。雲仙は雪が積んでいました)、茶屋にミルクセーキが。全身を凍えさせながら、食べましたよ!確かに、懐かしのミルクセーキの味。
知り合いからも続々と情報が!
人吉のお店にもミルクセーキがある?広島のチェーンのカフェにも?
ああ。そんな季節か。今年もまた、ミルクセーキを飲みたくなってきましたなぁ。

カテゴリー:食に夢中

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