第67回「痩せたシェフと肥った板前」
2010.06.01
6月は歳祝いの会が催されることが多い。
若い頃は、結婚式に呼ばれるパターンが多く、お財布が空っぽになり、泣きそうになっていた。
梅雨時は結婚式が少なく、式場辺りでジューンブライドというイメージを作り上げたのかな。
6月の花嫁は幸せになるという…と。
秋と並んで結婚式に行くことが多かったよ。
そんな、友人たちの結婚式に招かれることが一段落したら、今度は、歳祝いの会ばかり行くようになってしまった。
厄入り、還暦、喜寿……といった具合。
えー、今回は、そんな祝いごとの話じゃあないのであります。
歳祝いの会が多くなったのは、私も、それなりに馬齢を重ねた証しでありましょう。
そうなると、なぜか、こちらにもその幹事役がまわってきたりするようになります。
で、祝われる側の本人に正直に「どんな料理がいいですか?」と幹事としては訊ねることにしております。
「イタリアンとか、いいですね」とか答えていただくと、的が絞れてやりやすい。
具体的ではないですか。
さっさと、個室で参加者を収容できる規模のおいしいイタリアンを探せばいい。
数年前に、私が幹事をしたときがそうでした。
そこのイタリアンレストランのシェフは、若いのに丸々と肥っていて、いかにも"シェフ"って感じでした。
聞けば、イタリアで修行してきたということでありました。
思わず「あなたが作るんなら、ほんと、美味しいだろうなあ。オーラが出ているもの」と告げると、接客をされるシェフのお母さんが声を上げて笑っていましたもの。
そんなことを友人たちと宴席で話しておりました。
「それってあるよねぇ。確かに、痩せた貧相なシェフが作るイタリアンってまずそうだよねぇ」
「でも、それはイタリアンかフレンチか、中華のときだなあ。肥った寿司屋の板さんなんて、あまりイメージ湧かないなあ」
「そうだな。肥った人が寿司握ったら、でっかいのが出てきそうだなあ」
「オムライスの上に3枚におろしたヒラメが乗っていたり、お誕生ケーキみたいなローソクでも立てられそうな海苔で巻いたウニやイクラが出てきそうだなあ」
「寿司や和食は低カロリーのイメージだからね」
「あと、気になるのは、タバコ吸う板前さんやらシェフやら料理人やら。絶対、二度と行こうと思わないですね」
中には、まともなことを言う奴もいたりしますが、焼酎がまわり始めて、だんだん、馬鹿話になっていきます。
「あと、毛深い寿司屋って嫌だなあ。寿司を握る指の間に、毛がニョロニョロ生えていたら、気持ち悪くありませんか?」
「見なきゃいいじゃない」
「見てなくて、そんな寿司喰って、中から一本出てきたら、どこの毛かわかんなくて、気色悪くて食えませんよ」
「そんな寿司屋は、どこにあるの?」
「どこにあるって……あったら気色悪いだろうなあって話ですよ」
「ぼくは、眼帯して包帯巻いて絆創膏を貼っているような板さんの寿司屋も行きたくないなあ」
「腰が曲がった、よたよたした老婆が握る寿司屋にも行きたくないですよ」
「あら、そんなお婆さんだったら、ちらし寿司やら、巻き寿司やら、いなり寿司やらを作ってくれたら、おいしそうだと思いますぅ」
「じゃあ、どんな人が握った寿司なら食べたいのかなあ」
「メイドさんが握った寿司ってのがあると聞いたことがあります」
「バドワイザーのミニスカ娘が握った寿司は食いたいなあ」
「女性は、体温の変化があるから寿司職人には向かないっていうのを読んだことがありますよ」
「そうかあ、盛った方がいいってことなのかなあ」
だんだんと話は妄想化していき、当初の話題からかけ離れていくのでありました。
今年も一つ、還暦の幹事をやらなければならないのですが……どうなることやら。