カジシンエッセイ

第69回「人吉ちゃんぽん紀行」

2010.08.01

ちゃんぽんという麺料理には、目がないのですよ。
九州ではポピュラーでスタンダードな軽食なのだけれど、一応、説明しておきます。
スープの中に麺があり、その上に具が乗っている。具は、野菜と豚、海鮮を炒めたもの。それに生卵が乗っかっていたり、いなかったり。
一般的にちゃんぽんといえば、長崎が有名な気がするけれど、いやいや。熊本で育った私ではあるが、幼い頃から、ラーメンよりもちゃんぽんに親しんできたからなあ。(ちなみに、初ちゃんぽん体験は、記憶にないほど幼い頃だけれども、ラーメンの初体験はずっと遅く、中学一年です)
で、熊本には、中華で太平燕(タイピーエン)という麺料理があるけれど、これは、私の中の位置づけでいくと、“ちゃんぽん麺の代わりに春雨を使ったもの”ということになる。
腹一杯になるのがちゃんぽんで、ヘルシーなイメージがターピーエンという感じかなあ。
で、どちらが好きかと訊ねられたら、私自身の場合は、ちゃんぽん好きだと答えますね。

だから、「うまいラーメン屋がある」と聞いても、あまり反応しないのですが、「うまいちゃんぽん屋がある」と聞けば、もう居ても立ってもおられない状態に陥ってしまいます。
すぐにでも、確認せずにはいられない。
ちゃんぽんも、ラーメン同様にさまざまなスープがあるわけです。
トンコツ味のスープも当然あるし、醤油味もある。
百軒でちゃんぽんを供すれば、百のちゃんぽん味があるわけです。
具も、海鮮主体で海老やカニ、イカ、アサリが山盛りだったり、野菜主体だったり。
聞いたら、できるだけ早く味を確認しに出かけます。
推薦した方の価値観も、そのうち見極めることができるようになります。
Aという方が、「すごいちゃんぽん屋がある」というので飛んでいったら、ただ単に喰いきれないほどの量のちゃんぽんだったりということがある。味は…こんなものかのう、と。
Aという方は、とにかく満腹になることが、ちゃんぽんの価値を決めると考えている人であることを知りました。
Bという方が「県南で食べたちゃんぽんはうまかった。スープが絶妙。とにかく、客が多いかなりの人気店だ」と教えてくれます。
そこは醤油味でした。醤油味でもおいしければ私には“アリ”なのです。それに、Bさんの話どおり、とにかく人気店で、人が並んでおります。
でも、味覚って、ほんとに人様々なのだなあ。
残念なことに私には「辛かった」のです。つまり、肉体労働をやって塩分が不足がちの方には、丁度いい辛さだったのかもしれません。Bという方はスポーツマンでもありまして、どのような体調だったかわかりませんが、はっきりした味が好きなのだろうなと、思いました。
そうこうして、うまいもの探し行脚をしているうちに、味覚傾向が似ている人の存在もわかるようになりました。書評でも甲という方が推薦している本が面白くなく、乙という方が褒めていたら、まちがいないと思うようなものです。
そんなグルメの方が推していたら、無駄な労力を費やす必要がない!
で、私のちゃんぽんベストの店を探し出しました。
熊本市内からは、ちと遠い。
天草は下島。ここいらは、ちゃんぽん街道と呼ばれ、いろんなちゃんぽん屋があります。
その中でも私のベストは、苓北町の富岡港近くの「明月」というちゃんぽん屋。
見かけは何の変哲もない、フツーのちゃんぽん。ところが……口にスープを含んだら…。
まさに幻妙!トリガラベースであっさり気味なのに。やめられない止まらない。つゆ一滴残さず食べてしまいました。老夫婦お二人でやっておられて、売り切れると早々と店を閉めてしまわれる。メニューも、ちゃんぽんと、ちゃんぽん玉子入り。「玉子入れんで食べてほしかです」とのこと。
その話をしていたんですね。「明月を超えるちゃんぽん屋はないでしょう」と。
すると、知人がニヤリと笑って、「人吉に、おいしいとこあるんです。山道登って、こんなとこに~って民家がちゃんぽん屋。餃子も絶品。行きませんか?」
もちろん行きます。
当日は、梅雨まっただ中。その方の運転で人吉へ。豪雨だろうが、ものともせず。稲妻が光ろうが、でかい雨粒が窓を叩こうが、九州道をひた走る。高速道路を下りて、市内街中を抜け、球磨川沿いの細い道を走ると……ただでさえ細い道路の肩の部分が、滑落してましたよ。右下には濁流が……。危険の報酬だあ。
「帰りはちがう道で帰りましょう」そう脅え越え言ってしまうほど。
そして坂道を登り……。
「着きました」
そこが目的のちゃんぽん屋「ま心」でした。
その味たるや!
「うまあい」ちゃんぽんはトンコツとトリガラの併せ味。明月とは違うが、絶妙なスープ。そして餃子は野菜がふんわり。うむ。生命を賭して、ここまでやってきた価値がありました。
「天草に明月あれば、人吉にま心あり!」
さて、これからちゃんぽんの名店に遭遇するのは、いつのことか。楽しみでなりません。
情報求ム!であります。

カテゴリー:食に夢中

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