カジシンエッセイ

第78回 エマノンのこと

2011.05.01

ある方に指摘されたのですが、今年2011年はどうも私が「美亜へ贈る真珠」で商業誌デビューをして40年らしい。本当かなあと指折り数えてみて、やはりそのようです。
 1991年デビューだなぁ。
 で、よく訊ねられることがあります。
「エマノンの新作は書かないのですか?」
 エマノンというのは、私の連作に登場するヒロインの名前です。
 

私は、基本的にあまりシリーズ物を書かないのですが、例外もあります。1作は、クロノス・ジョウンター・シリーズ。これは、共通する主人公の連作ではありません。共通して使われる欠陥タイムマシーンの物語です。
 そしてもう1作が、エマノン・シリーズです。
 最初に書いたのは、1981年頃かなあ。
 エマノンは少女の姿をしています。長い髪をいつも風になびかせています。ちょっとハーフっぽい無国籍な感じです。化粧っけがなくそばかすがあるのですが、よく見ると、とんでもない美人であります。洗いざらしのジーンズを履いて、粗編み、とっくり首の生成のセーターをざっくり着ています。
 そして、彼は両切りのタバコを咥えて、旅を続けています。ぱんぱんに膨れ上がったE・Nのイニシャル入りのナップザック1つ持っただけで。
 でも、それは外観上のことでしかない。
 エマノンという自分で名乗る名前も、実はあやふやなものなのです。とりあえずエマノンと名乗っているに過ぎません。NONAMEを逆に読んだ仮の名前なのです。名前は、彼女に言わせれば記号に過ぎないから、どうでもいいでしょ、というわけです。
 そんな彼女は奇妙な体質を持っています。地球に生命が発生してから30数億年が経つのですが、彼女は、地球で起こったことをすべて記憶しているのです。それは不老不死ということではなく、記憶だけが母から子へ一代に一人だけ伝えられてゆく。微生物だったきおくから人間にいたるまで。
 そんな彼女を毎回登場させる連作になっています。
 これまでに「おもいでエマノン」「さすらいエマノン」という2冊の連作短編集と「かりそめエマノン」「まろうどエマノン」という2冊の中編があります。
 エマノンが主体となってストーリーを引っ張っていくこともあれば、主人公が不思議な事件に遭遇して、そこにエマノンが狂言回しのように登場することもありました。
 あまり、シリーズものと意識したくないので、物語をパターン化することを極力排除しようとしてきたつもりでした。
 最近は、年に1回くらいエマノンを書いていたのかなあ。
 数年前に、鶴田謙二さんがSF雑誌に私が書いたエマノンの新作にイラストを付けてくださいました。
 その描かれたエマノンが魅力的なこと。
 それからのエマノンの文庫復刊やらの表紙は、すべて鶴田謙二さんです。
 そのうち、私が最初に書いた「おもいでエマノン」を鶴田さんは完全コミック化されました。
 ひっそりと書き継いでいたエマノンですが、一気に読者が増え、エマノンの魅力を語る方が増えたような気がします。それは、まさに鶴田謙二さんの画の魅力故だろうなあ、と思います。
 昔、名古屋から鹿児島へサンフラワー号で船旅をしました。のんびり3等船室でSFを読んだり妄想したりの繰り返し。そんなときに妄想の中に登場したのがエマノンのキャラクターでした。で、彼女を登場させた短編を書き上げたのです。
 それでエマノンとは、もう会うこともなかった筈ですが、その時の編集さんが「あのエマノンを再登場させて書いてもらえませんか?」
 心の中では「続編なんて書けないよ」と思ったのですが、お調子者の私の舌は「わかりました。早速書きます」と。
 いかに呻吟して書いたことか。
 それから、注文頂くごとに書き上げて、我ながら、よく続いたものだと感心します。
 で…実は…。
 今月、そのエマノン・シリーズの最新刊が出るのです。
 4つのエマノンが登場する中短編が入っています。
 タイトルは「ゆきずりエマノン」(徳間書店)です。なんと、前作が出てから、このエマノン・シリーズは9年ぶりということになるのですねぇ。
 カバーも、エマノンとは切っても切れなくなってしまった鶴田謙二さんです。ぜひ、書店で手にとってみてくださいませ。

カテゴリー:ここにしかない

ページのトップへ

バックナンバー