カジシンエッセイ

第79回 塀の上を歩く

2011.06.01

 何の塀の上を歩いているかと申しますと、境にあるんですよ、この堀が。そして私は、おっとどっこいと塀の上をバランスとりながら歩いている。塀の右側には「正常」と書かれている。で、堀の左側は「糖尿病」と書かれているわけです。
 そう。今の私は、境界型糖尿病、または、糖尿病予備軍と呼ばれる状態で、正常とも、糖尿病ともつかぬ煉獄のような場所をふらふらとしております。

 じゃあ、その塀の上から「正常」の方へ飛び降りたらいいじゃないかと思われるかもしれませんが、手には長い棒を持たされている。そして「糖尿病」の棒の先には、やたら重い錘(おもり)がぶら下がっているので、そうはうまくいかんのですよ。
 この数年の人間ドックではずっと塀の上をふらふらしていたのでありますが、今年のドックで「医者に受診してください」と。
「血糖値、あまり変わってないでしょう」と口応えしたら「昨年9月から判定値が変わってます。手遅れになる前に!」
 そう言われちゃ仕方がない。
 糖尿病専門の先生の門を叩くことになりました。
ただ、糖尿病と言っても、症状がどのようなになるのか、ぴんと来なかった。メタボリックシンドロームとかはよく聞きますが。
 けっこう、合併症が怖い病気だということがわかって、その症状まで聞かされると、だんだん不安感が増して行きます。
 インシュリンやらを自分で注射したり薬を飲んだりしなきゃならんのかなあ。
「とりあえず、生活習慣を改善して数ヶ月後に再検査してみましょう。そして血糖値とヘモグロビンA1の数値が良くなっていれば、問題ないということで。運動量を増やすことと、食事療法ですね。お宅で、食事を作る方を病院に連れてきてください。食事指導をしますから」
 家族に、私の目の前で食事指導が。
「一日の摂取カロリーは1600キロカロリー以内にして頂きます」
 家族は、その場で「今まで食う量が多すぎた」「アルコールも摂り過ぎた。禁酒をさせなくては」と恐ろしい発言ばかりを飛び交わせるのでした。特筆すべきは、「豆腐の食べ過ぎ!」という言葉。肉よりは健康的だろうと思い込んで食べていたら、蛋白質の摂り過ぎ状態だった!のだと。
 で、娘が私の食事のカロリー管理を担当。
 そして、一日に14000歩の運動をする。ということでスタートしました。
 まず、メニューが一新しました。
 牛肉、豚肉類が消える、代わりに、鶏のささ身。
必ず食卓に上るのはコンニャク。
 圧倒的に増えたのはキノコ。シイタケ、シメジ、エリンギ。カロリーはないし、もともと好きだから、キノコは苦になりませんが。
 娘が作っている家庭菜園の野菜も大量に。野菜サラダは毎食ついてきます。
 ご飯は茶碗半分。ビールは糖質ゼロ、カロリーゼロの発泡酒に。
 そして、日々の変化をチェックして記録できるよう体脂肪も測れる体重計を買ってきました。
 スタート時は体重が70キロ。腹囲が90センチでした。
 そして日を追うごとにみるみる毎日体重が落ちていく。一か月で3キロ減の67キロ、腹囲も87センチに。
 最初は面白さも手伝い、珍しがっていた食事ですが、だんだん物足りなく思えてきます。しかもマンネリに。中華食いてぇ!甘いもの食いてぇ!
 とにかく夕食では、必ずコンニャクの刺身が並びます。いい加減、食べ飽きました。
 娘に言わせると「満腹感を感じるように」とのこと。「さすがに飽いたぞ」と愚痴を言うと、その後は「コンニャクのステーキです」「今日は、幻のコンニャクというのがあったから」「手造り秘伝コンニャクです」と。
 いろんなコンニャクを体験した結論。コンニャクは、どう食ってもコンニャクです。
 一日14000歩はがむしゃらに続けました。ただ、本音を言えば、カロリー不足で、へろへろです。
 一ヶ月を経過した頃から体重が、一進一退を繰り返します。停滞期と言うんでしょうか。65.5キロから増えたり減ったり。しかし、しかし、腹囲は85センチに。
 会う人毎に「痩せた」という反応を頂くようになりました。そう言われるとね、嬉しくなって、食事療法を続ける意欲も湧いてきますよ。「拒食症ですか?」と言った奴も!
 とりあえずの目標だった65キロを切ることができました。次は芸能体重の63キロを目指そうかと思いましたが……。
 目標達成後、ひさびさに肥後のあか牛の焼肉を食べました。自分に対してのご褒美のつもりで。
 そしたら……。
 翌朝の体重は、前日の64.8キロから65.6キロに!
 何日かけて落したか……停滞期の努力が一瞬にしてリバウンド。目が点になりましたよ。
 さて、二週間後に再検査が迫っています。勝って兜の緒を締めよ!目標体重に戻して……。
 さて、ヘモグロビンA1と血糖値はいかなる変化を見せているでしょうか?塀の上から「正常」に着地していれば、ご喝采!
 もう少し、緊張の日々が続きそうです。

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