第84回 猫の島へ行く。
2011.11.01
世の中には、猫派と犬派がいるんだそうです。ペットを飼うならどっちだ?と問われた場合のことですね。
私自身は、どちらでもありません。というより、子どもの頃から家で犬を飼っていたこともあったし、猫が飼われていたこともあったそうなのですが、あまり記憶がない。つまりペットにあまり執着がなかったのでしょうね。
ところが、現在、我が家では、猫派が圧倒的多数を占めています。
ペット嫌いの母と中間派の私を除けば皆、猫派なのであります。だから、現在、我が家では二匹の猫が飼われています。ウリエルとハピエルというお洒落な名の猫ですが。(ちなみに昔から、我が家の猫の名は、天使の名前がつくことになっています。ミカエルとか、ガブリエルとか。)で、家族連中がどれくらい猫好きかというと、私が知らないところで、猫カフェなるものに行っていたりするほどです。我が家の猫だけでは不足なのか!
孫などは、学校から帰るなり、猫の鳴き声を真似ている。人語で話しなさい。どうも、猫たちを呼んでいる様子。そのくらいの猫好き。
さて、先日の連休。
天草の離島に行こうということになりました。湯島というところ。
まだ、私も行ったことがありません。鯛がおいしいところのようです。
私は、昔から、離島が大好きです。なぜなのかなあ。子どもの頃は天草には、五橋もなく、交通機関は船を使うしかありませんでした。その頃からかなあ。島の中で独特の文化が伝えられている気がするし。なにより、のんびりしている気がする。今でも、まだ行ったことのない離島の名を聞くと、ぼんやりと「行ってみたいなあ」と呟くほど。
共通した離島のイメージは、「素朴な調理法だが食べものがうまい」というもの。福江も良かったなあ。壱岐も大好きだな。御所浦ものどかだし。そんな離島好きの血が騒ぐのです。湯島は上天草にある離島。湯島大根が有名だよな、という認識しかありませんが、これまで縁がなかった。
離島好きの血が騒ぎました。どれくらい離島好きかって、「壱里島奇譚」という小説を書いてしまうくらい好きです。
なぜ、行くことになったのか?
それを書いていなかった。
猫島だそうです。有名だそうです。
猫くらいいいや。行ったことない離島だし。
家族五人で江樋戸港まで行き、その港に自動車を置いて船で渡ります。出港してしばらくすると船賃を集めに来ます。その日は、乗客はうちの家族とあと二人だけ。のどかです。しかも、出港したと思ったら、あっという間に湯島の港に着いてしまいました。
港に下り立ち、孫が「猫おー猫おー」と叫んだのですが、猫の姿はありません。
だが、やたら静か。バイクで二人乗りして走り回っている姿はありますが、自動車は走っていない。昼食を予約していた旅館の方が、迎えに来てくれました。「時間帯もあるんでしょうねぇ。こんなに猫がいないって珍しい」
診療所も郵便局もJAも小中学校もあるが、警察とか派出所とかはないそうな。平和なんだなあ。
歩いている人と時折出逢う。「こんにちは」と挨拶を交わす。のどかです。
猫なぞ、私としてはどうでもいい。この、ゆったりと時間が流れていく感覚は素晴らしいです。
「なにか見るものありますか?」と訊ねる。
「島を一周したらいいです」と旅館の方。地図をいただきました。「猫の島、湯島」とありましたが、まだ、猫らしい猫は見ていないのに。
それから、島の裏へ。海沿いの小道を歩きました。雲仙岳噴火で犠牲者がおびただしく流れ着いたらしく、その霊を祀うという一ちょ墓供養塔。灯台。そして小中学校の前を通って港へ戻ってくるのに、たった四十分。
人家は見当たらなかったなあ。もちろん猫も。小中学校を過ぎると、途端に様子が変わりました。坂道にそってびっしりと人家が並びます。なんか、時間旅行して昭和に来たような光景。そして。
「あっ…」と孫が叫ぶんです。
猫が一匹。
孫がちゃっかり猫の餌を与えると……。
ヒッチコックの「鳥」という映画があります。幼稚園を鳥が襲うシーンがあります。ジャングルジムにまず一羽のかもめ。その次にカメラが向くと二羽。その次に数羽。やがてビッシリのかもめが。
思い出しました。どこから現れるのか?どこに隠れていたのか?一匹が二匹、二匹が四匹。わらわらと猫が集まってくるのです。どの猫も痩せているから、野良猫でしょうか。
あっけにとられていると、家族は皆大喜び。写真を撮ったり、餌をやったり。
なるほど……。猫の島というだけは、あります!
通りかかったおじさんと挨拶をして言葉を交わしました。「人間の数は、この島に五百人だけど、猫の数のほうがずーっと多いですバイ」
なるほどぉ。猫を島おこしにしようというアイデアは、よくわかりました。
それから旅館までは、もう猫だらけ。この島に着いたときは、猫たちは会議中だったかのかな。
鯛釣りのお客さんたちが、釣果を分け合っていたのですが、一匹の猫が魚を素早く咥えて逃げ去る光景を目撃!「お魚咥えた野良猫追いかけて」なんて、昭和の漫画の世界です。
時に忘れられた島だなあ、と実感。
一度は訪れる価値がありますよ。