カジシンエッセイ

第95回 旅に出ました。その2

2012.10.01

クロアチアは、ザグレブではなく、ドブロヴニクに到着しました。
 未知の国に入る瞬間は、着陸前から気になるものです。下を見下ろしてびっくりしました。
 地方の空港だからかなあ。滑走路は一本しかない。しかも滑走路以外は草ぼうぼう。

 ただし、驚くことがありました。前回のエッセイにもちょいと書きましたが、入国管理官といい、空港スタッフといい、若い女性は美女揃いなのです。手足が長くて、顔が小さくて、プロポーションは抜群。日本のテレビに出ているタレントやモデルみたいな女性が、右にも左にも。確か、ミラ・ジョボビッチはクロアチア出身だったよな、という予備知識はありましたが、そんな美女たちだけの国ってあったんだぁ!
 だが、しかし。
 外に出てきて素朴な疑問が。若い美女は相変わらず多いのですが、中年以上の美女が見当たらない。
 ???疑問符が行列で並びました。中年以上の女性は、みなドラム缶かビール樽みたいな方ばかり。ひょっとして、あの美女たちが年月を経て妖怪化すると、こうなるの?でもその中間形態がないじゃない。そんなはずは。ミッシング・リングか。
 ホテルは海岸沿いでした。
 早朝の海岸沿いを歩くと、遊歩道が切れてごつごつした岩場でした。しかし、海の透明なブルー具合と言ったら……。この世のものとは思えない海の色でした。そう。アドレア海なのですね。
 ぼんやり海を眺めていて気がつきました。海から顔を突き出したような巨石に、なにかペンキで書いてある。野暮だな!と思って読んでみると「NO NUDEST」
 わわっ。どうもここは、ヌーディストが侵入して楽しむ場所らしい。待っていたら、またヌーディストがやってくるんだろうか?それともここで勝手にヌーディストになるんだろうか?どちらでも構いませんが、変な東洋人がうろついていたためか、ヌーディストは出現しませんでした。
 朝一番にスルジ山へロープーウェイで登りました。スルジ山は旧市街の背後にある山で、その山頂からは旧市街が一目で見渡せるので、人気のスポットだそうです。
 数分で山頂到着。あっけない。確かに眺望は素晴らしい。海に食い込むように広がった世界遺産の街です。独特の茜色の屋根が広がって、おとぎの国のような印象でした。その街を城壁がぐるりと取り囲んでいる。そう。旧市街は海上城塞都市なんですよ。この街を見ている頃から、暑くなって来ました。ここの夏の暑さは尋常なものではなく、ジリジリと首筋を焦がすような暑さです。ただ湿度が低いのが幸いです。だからといって暑さが和らぐわけじゃない。しかし、ここは低いとはいえ山の上。温度をロープーウェイ乗り場で確認。36度ある。ということは、100m高度差で0.6度違うから……まさか下界は38度。
 海岸に近いというのに。しかし、ロープーウェイで下ったところで、それが真実であったことを確認しました。
 正確には日陰で39度だから日向では……。つまりサウナ風呂に服を着て入っているようなものですよ。旅行社で聞いたときは現地は26度くらいですなんて抜かしやがって!
 旧市街は完全に観光地で、お土産物屋、飲食店がずらり。とにかく暑さを逃れるために、生ビールを飲みました。
 暑かったからか、それともこの地のビールがうまいのか。そのビールが極楽に連れて行ってくれました。とにかくこんなにうまい生ビールは、初めてでした。
 さて、旧市街を取り囲むような城壁の上は、歩いて回れるようになっていました。しかし、屋根があるわけじゃないから、直射日光があたって40度ははるかに超えているはず。しかも、有料です。(日本円で1,000円くらい)
 ドブロヴニクはかつてラグーサと呼ばれていたのですが、ラグーサとは“石”という意味。歩いてみて実感できました。ピレ門から城壁に登りました。下を見下ろすと、旧市街は観光客で大混雑していて、正直その人ごみにゾッといたしました。それから、迷ったのですがその人ごみに戻る気にならず、約一時間かけて旧市街を取り巻く城壁を一周しました。途中、海上からの侵略者に対抗するための古の大砲なども鎮座していて、スクリーンの世界に飛び込んだような錯覚がありました。歴史映画、あるいはその青い海を眺めると「紅の豚」のイメージ。このあたりは、要塞なんですね。ボーカル要塞から歩き続け南東の聖イヴァン要塞から見下ろすと……。
 あっ、これがドブロヴニクの観光写真を撮る場所なんだ!と判明。ガイドブックで散々見慣れていたから。
 クロアチアなんだ!ここは!と実感しました。
 それから城壁を下りた頃は、脱水症状の熱中症一歩手前。クロアチアにアイスクリーム屋がやたら多かったのも納得です。そのアイスクリームもうまかったぁ!
 今年の日本の夏は36度というのも体験しましたが、この貴重な灼熱地獄体験のお陰で、「クロアチアじゃ炎天直下40度。ぬるい湯加減ですよ!」とほざいて顰蹙(ひんしゅく)を買いつつも、それほど苦しまずに、日本の夏を乗り切れた気がするんです。

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