カジシンエッセイ

第96回 スロベニアは竜だらけ

2012.11.01

かつては、ユーゴスラビアだった国々ですが、面白いことに国境を越えるとガラリと雰囲気が変わるんです。
 ドヴロブニクからスプリット・トルギールを出てクルカ国立公園をまわってクロアチアを出ました。それからボスニアヘルツェゴビナに2泊したのですが、それまで見なかったモスクがあるんですネ。それから、自動車が古い。

ムスリムの人たちをよく見かける。民家がなんだか薄汚れている気が。垢抜けない、というか。国民性も、通関でわかります。なんと、ボスニアのビバッチという街のホテルに泊まって他の国を観光するわけで、だから国境を朝と夕に通過する。つまり、1日2回バスを降りて、ナチスに並ばされるユダヤ人みたいにずらりと順番を待ち、パスポートを見せなければならない。ボスニアに入国するときの愛想が悪かったこと。
 それに、ホテルの部屋は狭いし料理はまずいし、クーラーはついていない、と最低・最悪の印象しかないので、はしょります。
 ただひとつ。ボスニアの田舎道の印象を記しておきますと、やたら上半身裸のおっさんが目立っておりましたなぁ。
 スロベニアに入国するときの審査官のお兄ちゃんが、やたら笑顔で愛想が良くて、この落差はいったいなんなの!ECの国に入るんだという気分になりましたよ。
 昼食で行ったレストランも味付けはちゃんとしているし、まともな国に来た気分でした。
 スロベニアのイメージは、一言で言えば“竜”でしょうか。どの観光地に行っても、竜に関連したエピソードがあるようでした。
 ボストイナ鍾乳洞の奥深くに入りました。ディズニーランドのトロッコみたいなもので地下へ行くのですが、地表より20度低い世界。石筍やらの岩の模様が独特で地獄巡り、胎内巡りの印象です。H・R・ギーガーの怪物画やガウディの建造物を連想します。とにかく、広い、でかい、の異世界でした。水槽の中に、この洞窟の名物である生物、ホライモリがいました。一年間餌なしで生きていけるという生命力を持っているらしいけれど、竜の末裔のようなイメージで語られていますね。
 ブレッド湖に行ったら、竜の組立人形が売ってあったし。
 そういえば、ブレッド湖の中央の小島に教会があった。手漕ぎボートで渡るんですが、島に渡って98段の階段を登った上に教会があるんです。で、言い伝え。結婚するとき、花婿が花嫁を抱っこして登りきれば二人とも幸福になるらしい。途中でへたばれば……不幸な末路ということでありました。
 へたばったら、どうするんだろ、と思いましたが、よくしたものです。この協会には170キロの重さの鐘があるんです。この鐘を3回鳴らせば願いが叶う、と、私も鳴らしてみましたが、たしかに重い。でも不可能じゃありません。だから、もし花嫁を階段の途中で落としても、この教会で鐘を3度鳴らして幸せを願えば、挫折は帳消しではありませんか。
 リュブリャナ市にも行きましたが、橋には欄干に竜が!座ってる!竜の橋です。
 その近くで、リュブリャナ市の日本語観光パンフレットを見つけました。それを読みました。
「リュブリャナ発の見最善方法」とある。あ、日本人が書いたものではないな。
「達人からの口コミ情報」とありました。「リュブリャナ川に沿って歩きながら数のカフェやパブをひやかす」
 数のカフェってなんだろう。見て回るのではなく「ひやかす」ですか。
「旧市街の石畳を歩きながら、遠き昔の空気を吸い込む」遠き昔に思いを馳せると言いたいのかな?遠き昔の空気を吸い込む様子を想像して脱力しました。
 リュブリャナ市の旗があったんですが、城の上に竜がいるというものでしたよ。ここにも竜が。
 そしてパンフレットの最後に、こう書かれていました。
「私たちは環境を大事にしているので、再生紙に印刷しています」
 たぶん、日本に留学していた方が作り、チェックを受けないままにパンフレットになってしまったという印象ですね。
 でも、雨宿りで寄った市内中央の観光センターではアンケートを頼まれたほど(もちろん日本語)ですから、かなり日本人観光客ターゲットに考えているのだな、と思いました。
 アジアの龍。そしてこちらの竜。やはり、なんだか共通点がありますね。架空の爬虫類というか、そんなイメージ。どれも人間出現以前に絶滅した恐竜のイメージとダブりますよね。そんなイメージが人間の潜在意識に刷り込まれているのかなと思いますよ。

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