第98回 夢のことなど。
2013.01.01
あけましておめでとうございます。
この一年が皆さまにとって充実した時間になりますように。
さて、お正月の話題となると、おめでたいものでなくてはならない、という気がします。
一年の計を占うのは、初詣に行って神社で引くおみくじでしょうか。それから、初夢で何を見たかで、その年がどんな年になるかを予想したり。
夢については前にも書いた気がしますが、実は人間の心って、こんな変なものを想像してしまうのだ、という典型的な例として夢のことを思い出してしまうから仕方ありません。
夢って何だ?といえば、睡眠中に見る幻覚のことなのですが。
心理学者たちにも夢は研究の宝庫にも見えているようで、夢が何を意味するのか、さまざまな解釈が存在します。フロイトだと性的な願望に意味づけられたり、ユングだと宗教的現象に。他にもいろいろですね。そして、心理学的解釈と同時に、夢は昔から超自然的なお告げとして考えられてきたらしい。それが変形していって、夢占いということになるんですかね。
私が、いろんな方から受ける質問で多いのは「どうやればアイデアが湧くんですか?」というもの。
あるときにふっ、とアイデアは下りてくるんです。すると「どんな時に下りてくるんですか?夢のなかですか?」
なるほど。夢の中だと変なアイデアがいっぱい生まれてくるような気がするのですね。
しかし、夢の中で面白い話に出会って、慌てて目を醒まし、夢で見た粗筋を枕元のノートに書き込みます。
確かに、その時はこんなに面白いワクワクがする話があったのだ、と興奮しています。しかし、翌日目が覚めて仕事の寸前にそのメモに目を通すと……。
何が書いてあるか全く意味不明。何を言いたかったのかもわからん始末です。
その時に、夢は創作の手助けにはならないのだ、と確信した次第。
そして、小説を書く際にタブーとなっているのが“夢おち”なのです。
奇天烈な事件が起こり、不思議な事が次々と連続していく。さて、どうなるのだろう。この不思議な出来事の真相は?そして、絶体絶命の危機に陥った主人公は、どうやって逃げることができるのか?
そんなハラハラの状況で真相が明かされる。
「そこで主人公は、はっと目が醒めたのだった。ああ、よかった。あれは夢だったのか。そうとわかれば、あとひと寝入りするか」
どうです。これをやれば、脱力させること必至ですよね。
つまり、ラストも夢は使われないほうがよろしい、ということになる。
ただ、皆無ということではありません。私の作品の中でも、唯一ですが夢にヒントを頂いた小説はあります。「干し若」という短編です。夢で見たのは、吸血鬼から血を吸った蚊が馬や犬の血を吸うと、その動物たちも吸血鬼になってしまうというもので、夢を見ながら、変な話だなあ。何という話なんだろうと考えていると、どこからか声が聞こえてきて、「この話は、干し若というんだ」と。もう例外中の例外ですね。
だから、夢が小説を書く手助けになるとは、あまり考えていません。
ただ日常生活の影の部分を、夢は連想しながら見せてくれているのだろうな、という気はしています。あるいは夢ならではの願望とか。
実は私は高所恐怖症で、飛行機に乗るのが大嫌いです。しかし、夢の中では空を飛ぶのが大好きなのであります。ということは、これは夢だとわかっているのかもしれません。これから眠りの中に入ろうという時、私は、両手を広げ離陸しようと全力で走っています。うまく行けばテイクオフで飛び上がり、夢の中で飛行を続けることがよくあるのです。そのとき、空中を飛びながら、「夢はいいなあ」と考えて下界を見下ろしているのを覚えていますから、奇妙な気がします。
だから、夢のお告げや予告やらはあまリ気にしないように。縁起が悪い夢だって、逆夢と考えて下さい、と終わればいいのでしょうが、最後に、夢でこういうこともあるのだ、ということを書き添えておきます。
学生時代の友人の体験談で、彼自身から聞いた話。
夢に女性が出てきて、その女性と楽しく話していたそうです。その女性はクラスは同じだったけれど、全然意識していなかった。特別美人でも好きなタイプでもない。なぜ、その女性が夢に出てきたのか不思議でならなかったそうです。その女性が夢に出てきた理由をいろいろ考えたが思いつかない、と言っていました。
それから、しばらく後のこと、私は彼がその女性と付き合いだしたことを知ったのです。
予知夢だったのか?夢を見たことで意識下に女性のことが刷り込まれたのか?あるいは、女性が彼の夢の中に潜り込むまじないでもやったのか?
この不思議な話を後年、酒の肴に話していたとき、ある男の言ったことが忘れられません。
「そりゃぁ、生霊が夢に入ったんだよ」
さあ、皆さまの初夢が楽しいものになりますように。一富士二鷹三茄子四扇五煙草六座頭と祈りつつ。