第101回 恵方巻きの惨劇
2013.04.01
私は季節感のあるものが大好きな人間であります。夏至の日にはカボチャを食べ柚子風呂に入ります。
正月は三ヶ日の内に必ずとろろ汁を食べます。皆さんのトコでは三ヶ日の内にとろろ汁を食べると中風にならないと言いませんか?七日には七草粥が定番ですよね。
さて、最近は恵方巻きなるものを耳にする様になりました。節分の日にその年の縁起のいい方向を向いて巻き寿司を食べるというイベントです。子どもの頃は聞かなかったから、バレンタインのチョコレートと同じ様に、最近流行し始めたものでしょうね。
恵方巻きを食べると、縁起がいい。恵方巻きを食べると、いいことがある。そんな感じです。
さて、今年の節分は、日曜日でありました。そこで、私が考えたのが〈山へ登り、頂上で恵方を向いて恵方巻きを食べる〉でありました。
仲間はすぐに決定。そして、せっかく山頂で食べるんだからと、おいしいお寿司屋さんに恵方巻きを注文。山は熊本県北部の山頂から四方が見渡せる八方岳に決定しました。
早朝からスタート。風もない好天。晴れ男集団の登山か!というくらい恵まれた条件でした。約二時間で山頂へ。いつも地面がぬかるんでいる印象がある山頂近くでも、登山道が乾いて歩きやすいのなんの。まさに、天の高みにいる誰かに祝福されての山歩きでありました。
山頂へ到着すると、お昼前。今年の恵方は南南東ということで、コンパスで正確に方位を計測。そして、恵方巻きを黙々といただきました。恵方を向いて食べながら下界を見下ろすと、何とものどかな気持ちでしたね。日常で心の中に溜まっていたストレスが、ゆるゆると融けて流れて行くのがわかりました。
これで、この一年は幸運に恵まれる。そう確信しましたね。
さて、その帰りのことです。
ああ楽しかった。最高の山行だったと登山口までたどり着きました。そして駐車の場所まで移動するときのこと。
舗装道路です。なぜか足を滑らせ転びました。思わず右手で身体をかばったのですが。
痛ッ!!
見ると右手の小指が、人間に指では絶対にあり得ない方向に曲がっているではありませんか!我ながら、ぞっとしました。
慌てて、左手で無理に右手の小指をあるべき位置に戻しました。痛かったけど。これで見かけは普通。
ただし、帰ってから夜中に痛んで痛んで。
翌日は朝っぱらからお医者さまのところへ。
お医者さまはレントゲンも撮らずに一目見ただけで「こりゃあ、骨折してる。一目瞭然」
ギブスをつけられました。
「いつ、取れますかねえ」
「三週間。最低ね」
私は原稿は手書きなのです。でも、折れているのは小指だけだから字を書くのに不都合はないかな、と思ったのですが……。
大きな間違い。いつもペンを握って書くペン先の位置が違う。ギブスに入っているのに、無理した指の形になり、痛い!痛い!
数行書くのが、やっと。仕事にならない!
それが三週間続いたのですよ。
仕事は進まない。風呂に入っても身体を洗えない。夜中に痛みで目が覚める。
山道でもないところで何故転ぶんだ!!あそこに魔が潜んでいて足を引っ掛けたのかよ!
ふと、思い出しました。
山頂での恵方巻きの結果がこれかよ!
一年間、幸せなことになる筈じゃなかったのかよ!
ひょっとして、コンパスが狂っていて悪しき方向を向いて食べてしまったのではなかろうか?
いや、食べ終わるまでに無意識に喋って悪いものが私の体内に一気に入り込んで来たのでは?
三週間が経過してやっとギブスが取れました。ところが、その間、小指を全く使っていなかったので麻痺して小指が曲がりません。激痛が走るわ、涙がでるわ。
ギブスが取れたら原稿が渉る予定でした。何のそのです。ギブスが保護してくれたのですね。痛む痛む。数行づつしか書けません。
日数がクスリとはよく言ったものです。それから日が過ぎ、やっと、この状態にまで回復しました。
そして教訓!
恵方巻きを信じるな。
この話を会う人ごとにやっているところです。ギブスが取れないときも山登りには出かけていました。福寿草を見に登ったときは、右手に手袋をつけられないので、鍋掴みを付けて行きましたけどね。
「恵方巻きを食べて良かったんじゃありませんか?ほんとうは、もっととんでもない目に遭う筈だったかもですよ」
なるほど、いろんな考え方があるものですね。
で、今、完全回復した訳ではありません。やっとここまで回復したものの、数行書けば痛んでいたのが、数十行は続けて書けるようになったというものですが。
もし、恵方巻きに効果があるのなら、今年の残りは幸運の連続にしていただきたいものですよ。
頼むよ!