第45回「聖林再映画化パニック」
2008.08.01
五月某日。
朝起きて、テレビのスイッチを入れると、「黄泉がえり」ハリウッド・リメイクのことが放送されていた。
話は前から進んでいたのだが、こんなこと千に三つ実現するかしないかの世界だから、黙っていたんです。眉に唾つけて。
発表になっちゃった‥‥‥。
ということは、ある程度、企画が進行していると考えていいのかな?くらいに思って。だって、進行の途中経過は、私の耳には全く入ってこないんだから仕方がない。数日前に出版社の編集さんから「近々、アメリカで正式な制作発表が、あるみたいです」と聞かされたくらい。
だから、テレビで詳細を聞いても、ぴんと来ない。主演男優候補がずらりとならぶが、「これって記者が勝手に想像しているだけじゃん。つまり、妄想じゃん」と思う。制作費が百億円を超えると知って、少し腰が抜けかけた。
仕事場に出ると、もう、その日は仕事にならなかった。テレビやら新聞やらで知った親戚やら友人、知人から電話やらメールやら。
何だか、この状況は、前にもあったなあ、と。ああ、日本SF大賞を頂いたときも、こうだったっけぇ。
とにかく、ひっきりなし。ラジオの電話インタビューに引っ張り出され、新聞の取材までも。その間にも祝いの酒を頂いたり、お花が届いたり。
そこいらでマスコミの情報が与える影響の凄まじさに気がつく。同時に、私の周囲の人々が、このニュースをどう受け取ったのかをを実感。
最初は電話で答えることにも戸惑っていたが、質問にもいくつかのパターンに分類されることに気づいてきた。
「おめでとう。カジシン、ハリウッドに行くの?」
私は、かなり映画好きだ、と自分でも思う。記録している映画日記では昨年は二百五十三本観ていた。だから、このリメイク話を頂いたとき、冗談で「条件に、原作者を撮影現場ご招待っての入れて貰って下さい」と言ったら、ホントに契約書にその一項が入っていたよ。言ってみるもんだなぁ。でも、そのときは“ファーストクラスで”の一文を言い忘れたから、奴隷船みたいなエコノミークラスかもしれないぞ。
「ま、とにかく、ご招待はあるでしょ」と答える。すると皆「俺も、ワシも、私も‥‥連れていってくれ。お茶くみでも、電話番でもマッサージ師でも名目はなんでもいいから」とか「通行人の役で、ワシを出して欲しい」
私は、そこまで知りません。
「おめでとう。これから世界のカジシンだ」
そういう人が、かなり。
でも、本人は、そんなこと全然思わないっス。仕方ないので、「“黄泉がえり”と言ったら、アホになりますって、芸をやりましょうかぁ」と答えます。
「原作料で、いくら入ったよ。おごってくれぇ」
かなり多い質問でした。
ちなみに、市内の繁華街を歩いていたら、某ホテルの支配人の方が「カジオさんカジオさん」と走り寄ってこられ、「いやあ、おめでとうございます」まではよかったけれど、右の掌をスコップの形にして「こりゃあ契約金って、ガッポガッポでしょう」とスーツの懐の中に何度も出し入れして歯茎を剥き出して笑われました。そんな人通りの多いところで。肩をすくめるしかありません。
「あの。そんなたいした額じゃありません。嘘お、という額です。何段階かの搾取フィルターがあるから。五ヶ月ほど仕事やらなくていいくらいの額ですから」と正直に答えます。
そんなの、どうだっていいだろ!誘拐されても身代金も払えないよ。
でも、ここ迄進んでも、ぽしゃる映画化の話は、随分、聞いてきたり経験したりしてきたりしたわけですよ。だから、この話が、途中で挫折し中止になっても、なんにも不思議じゃないと思うし。
それでも友人たちが、祝賀会なるものを、早々に開いてくれたりすると、私としては「嬉しいけど、ありがたいけど、‥‥知—らない」であります。
まぁ、みんな、酒を楽しく飲む理由づけに考えて頂ければと、そのくらいに。
あ、主演女優がミラ・ジョボビッチとスカーレット・ヨハンセンなら、燃えます!そのときは撮影見学中に合コンを激しく希望ですが。‥‥何か?