Column - 2020.11.01
第192回 ショート・ショートの主題と構造
定期的にショート・ショートを書いていると迷いも生まれる。
かつては、思いついたアイデアをそのままの勢いで原稿用紙に書き進めていれば、ちゃんと仕上がっていたし、面白いものになったと自己満足もできていた。
そんな日々を送っていても、自分の作品に疑問を感じるようになる。壁に突き当たる。
書いている途中で、このアイデアは一度書いたような気がしてならない。読者の方に陳腐と思われはしないか?誰もが驚くような斬新な話を書きたいのに。これは誰かがすでに書いたアイデアではないか?このオチでいいのだろうか?意外性は?ひとりよがりではないのか?
そう思い始めると限りがない。思考が空回りを始める。それでも、無慈悲に締切は迫ってくる。だが、出てくるアイデアはどれも気に入らない。どうしよう。焦る。どうすればいい?
そうだ。このようなときは初心に還るべきではないのか?ショート・ショートのどこに自分は感激したのか?幼い頃は、星新一ショート・ショート集を次々に読んでいたなぁ。変な事件が起こり読み進めていくと、結末では予想もしなかったオチが待っていた。ぞっとさせられたり、笑いが止まらなかったり。ときにはそれまで感じたことのない奇妙な気持ちにさせられたり。
謎の薬を発明したり、見知らぬ部屋にいると外からノックの音がしたり。悪魔や魔人が出現して願いを叶えてくれる話もよく読んだ気がするなあ。そうだ。悪魔や魔人をどうやって呼び出していたのかを調べてみよう。
私は、それから何冊もの古書を読み耽った。すると、その中に表紙が取れて中のページもずいぶん抜け落ちた一冊があった。読める部分にはこうある。
「ーを呼び出すには、こう唱える。“ハザラ・カマ・カマ・エキュイタス・ナヌーシ・ハヌーシ………”」
何を呼び出すか前後がないからわからないが、大声で書かれた呪文を言ってみた。
すると……。信じられない。何もない空間から中年男が突然現れたではないか。
「呼び出したのはお前か?何か頼み事があるのか?」
悪魔にしてはうだつのあがらない風体。表情もどことなくぼんやりしている。
「いえ。今、面白いショート・ショートを書きたくて調べていたんです。そしたら間違えてあなたを出してしまった。いや、ショート・ショートを書く法則みたいなものがわかればいいなと思って」
男は、わかったというように頷く。「ふん。お前の願いは、ショート・ショートを書くコツを知りたい、ということか」
「ま、早い話がそうです」
「ショート・ショートは6000字を超えずに一つの物語を完結させるのがいい。短く。数行でも大傑作が書けるのも特徴だ。短いのならこういうのもある。
“Boy meets girl.
Boy lost girl.”
Boy made girl.
三行ショート・ショートだな。これも最後に意外性を持ってきておる。」
「登場人物は少ないほうがいい。ショート・ショートで群像劇を書いても話が盛り上がらないし、ストーリーが語れない。それから、宇宙人や幽霊を出すと、読者を引き込みやすい。だが、叙述トリックのオチが多くてマンネリになりやすいから注意だな。ー私は3本目の手を素早く動かし驚いて倒れそうになる地球人を支えた~とか~うっかり、もう私には足がないことを忘れていた。もう私は死んでいるのだ~といったものだ。こんなオチでは呆れられるのが関の山だ。」
「それから、避けたいのは夢オチだな。さまざまな異変で、どうなるのだと読者をワクワクさせておいて、これまでの出来事はすべて夢でした、という結末にするのは読者に対する裏切りでしかない。読者から馬鹿にされても仕方ない。避けるべきだろうな。」
「悪魔との取引きや、不思議なものを売ってくれる店の話もよくあるぞ。これは便利だと思っても何か欠陥がある。魔法使い見習いの話がいい例か。魔法使い見習いがほうきに魔法をかけて水をくんで運ばせる。しかしうまく魔法が解けずにあたりを水浸しにしてしまう。技術の暴走というSFのテーマにも通じる。ドラえもんでもよくあるテーマだよ。」
「これからは、非現実的な設定で語り始めるのも、いい方法だと思う。とても存在しない職業が、現実にあったらどんなことが起こるだろう、というこれもIFの話づくりだな。架空の生物が出現したら、とか、どんなものでもIFを思いついたら。それが突飛であるほど面白い話になる気がするね。」
「ショート・ショートを書く理論は存在しないよ。よりたくさんの作品を読むことだね。そうすれば視野は広がる。そして、迷うより先にたくさんの作品を書いてみる。それがいちばんのショート・ショートを書くコツだよ」
なるほどぉ。話を聞いていると、この謎の男のいう通りがんばれば傑作を書けそうな気がしてきた。いったいこの人は何者?
「ありがとうございます。あなたはショート・ショートの神様ですか?」
「そんなもんじゃないよ」
「悪魔や魔人について調べていたときに出てこられた。じゃぁ、あなたは悪魔?」
「冗談じゃない。悪魔じゃないよ」
「教えてください。魔人ですか?」
男は宙を見上げ困ったように言った。
「魔人でもないなあ。魔人に非ずだよ。なんて言ったらいいかなぁ?」
「そうか!ひょっとして」
魔人に非ず、非・魔人…ひ・ま・じ・ん