Column - 2006.06.08
第8回「球磨川の吹き出し口」
球磨川のほとりに立ったとき、ある思いが湧きあがった。
この球磨川は、どこから流れてくるのだろう。
終点はわかる。
膨大な水量が、八代海に流れこんでいる。
その球磨川にはおいしい鮎がいる。ウナギや鯉やさまざまな魚たちが生息する。
球磨川で作られる水力発電量は、熊本県内一である。
流れにも特徴がある。日本三大急流の一つにも数えられるほどだ。だから球磨川下りは有名だし、ラフティングなどのアウトドアスポーツのメッカにもなりつつある。
球磨焼酎とも、切り離せない関係だし。
調べてみる。
河口までの全長が百十五キロメートル。流域面積千八百平方キロ。
つまり、人吉生活圏に圧倒的な影響を与えている川である。
凄い。
すると、ある考えが瞬間的に湧きあがった。
球磨川のスタート地点に行ってみたい!
ここから、球磨川が始まっています。そんな場所があるはずだ。
ついに源流を探す旅に出る。
地図でたどってみると、球磨郡の奥座敷、水上村の北部に源流があるようだ。地図のその部分が緑色ではなく、茶色に塗られているから、そうとう高度があるらしい。宮崎との県境にも近いとわかる。
登山靴も用意した。
何せ、九州中央山地国定公園の中に、ぽつねんと「球磨川水源」の表示があるのだから。
早朝。水上村に着く。
一万本の桜で有名な市房湖に沿って走ると「球磨川水源」の表示があった。
よし、間違いない!と進路を北に向けた。
最初は、人家もまばらだなぁとしか感じていなかった。どんどん人里を離れて、山の中に入っていく。
道幅も狭くなっていく。登り坂をくねくねと曲がっていく。
舗装道路もなくなり、文明の気配さえ消えてしまう。
突然、視界が開ける。眼下に、植林されて間もない禿げ山のような光景が拡がる。その尾根のような道を走る。本当にこの道でいいのかと不安になる。
標識さえない。
突如として、橋のそばに空地がある。そして、「球磨川源流」の文字が。
やれ嬉しやと車を降りると、そこから先は水源まで歩かねばならないとわかった。
登山道の小径が伸びていた。歩き始めた。斜面の小径を延々と。登り這いずるようにして。すでに一時間は歩いたか。
すると突如、ゴウゴウと水の音が聞こえた。川の気配はない。音のする方角に近づいてわかった。斜面の一段下の岩場から、凄まじい勢いで水が噴き出ていた。まるでポンプだ。
「これって球磨川の噴き出し口?」
そのようだ。岩は苔むして、もののけの森みたい。でも・・・源流が、この程度の水量とは。本当に球磨川のスタート地点?
この球磨川の噴き出し口に、栓をしたらどうなるのだろうと想像した。
みるみる八代まで球磨川が干上がり、球磨川下りの船は立ち往生し、人吉は停電になり、鮎やウナギが乾いた川底で飛びはねる。河童が干物になって「水!水!」と叫んでいる。
やってみようか!
一瞬、私は、球磨川ジャックをして、人吉球磨地区の征服者になったような気分を味わった。