Column - 2006.06.08
第9回「焼酎もなか」
人吉に行くという甥に頼んだ。
「いちばん、人吉・球磨に行ったということをアピールできるようなお土産を買ってきて!あ、一品だけね」
「何で、一品だけ?」
「その一品に、人吉・球磨のイメージがこめられると思うから」
「どうして?」
「人吉・球磨のエッセイに使うから」
怪訝そうな顔をしたが、約束どおり買ってきてくれた。感心な奴だと思う。
「どんな買い方をした?」
「お土産屋に行って、人吉らしいお土産をくださいと言った。あまり高くないのをって」
無精な奴で、吝だなと思う。
何が入っているか開いてみる。
「焼酎もなか」だっだ。そうか、未成年の甥に焼酎は売れないだろうし、無難な選択なのだなと思う。
じっと見る。一升瓶のミニサイズの形をしている。実在の焼酎の名前が一本(?)ずつ包装されていた。もちろん、その中には「白岳」という包装のものもある。
私は甘いものが苦手だ。もなかと聞いただけで敬遠する。
落語で「饅頭こわい」という題目があるが、私は、こわいほどではないが、口に頬張っただけで、どうしても飲みこむことができないほどだ。
アルコール系は大丈夫だ。意識さえ残っていれば、どれだけでも流しこむことができる。
つまり、私の眼の前にあるのは「矛盾した」食べものなのだ。焼酎味。しかもアンコ。
腕組みをする。しばらく考える。
考えてもしかたのないことなのだが。
包装をむいてみると、もなかであることは一目瞭然である。ナイフを持ってきて縦に二つに切る。不用心に口に放りこんだりはしない。私は、人一倍慎重な人間なのである。
中には白餡がむっちりと詰まっていた。
は。
かすかに焼酎の香りがした。まちがいない。確かに餡の中には焼酎が含有されているようだ。
半分に切ったもなかの三分の一くらいを切りわけて、口に含んだ。
ただのもなかだ。少量なので飲みこめた。
甥が現れて不思議そうに言う。
「何で包丁を持って、テーブルのまわりをグルグル回ってるの?」
「いや、人吉名物の菓子を研究しているところだ。食べてみてごらん。感想を聞かせてくれ」
甥は、わかったと言って、残っている六分の五のもなかを口に放りこむ。
「どうだ!」
「おいしいよ」
「焼酎の味は感じた?」
「なんか、お酒の感じはしたよ」
そうか。私は常日頃、アルコール類をとりすぎていて、舌が麻痺しているのかもしれない。そういえば、歯医者で抜歯したときに、通常量では効果なく、医者さまに「じゃあ、梶尾さんには、特別サービスでおまけしときましょう」と麻酔薬を五割増し(当社比)くらいしてもらったものな。と思い出す。
やはり、焼酎は入っているらしい。ということは、「白岳」包装には白岳の、他のメーカーの包装では、その焼酎が入っているということなのだろうか?
次の疑問だった。
三種のメーカーの焼酎の包装を開く。
「一口ずつ食べて感想を聞かせてくれ」
甥に頼む。素直に彼は一口ずつ食べた。顔をのぞきこむ。「どうだ?」
困ったように甥は答えた。
「わかんないよう。甘かった」
その疑問は解けないままだ!