Columnカジシンエッセイ

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Column - 2006.06.08

第11回「人吉温泉の由来は?」

山歩きが好きである。山歩きをして身体中が汗でべとべとになり下界におりてくる。その後、近くの温泉で疲れた体を癒す。熱い湯に身体をひたすと、内部からあらゆる身体に悪いものが融け出してくるようである。忘我の境である。
球磨の山を歩く。そして下山後にむかうのは人吉温泉である。
某旅館で入湯料を払って温泉に浸かる。
入るときに効用なぞは読んでおく。リューマチ、神経痛、皮膚病、婦人病にいいそうである。泉質は弱アルカリのナトリウム炭酸水素塩泉だそうな。
立派な天然温泉である。湯質も気持ちがいい。
そこで、はたと気になった。
温泉の由来の記述がないのだ。
私は温泉大好きなほうで、行く先々で、温泉に入りたがるのだが、だいたい温泉ごとに由来がある。
いくつかのパターンには、分類できるのだが。

その1:傷ついた動物のあとをつけていくと湯治用の温泉を発見してしまった。鹿や猿や狸や熊が愛用していた温泉である。鶴や白鷺、鷹という鳥の例もある。カラスがつかっていたというものさえあるが、何となくカラスの行水のイメージだな。

その2:偉い僧侶が立ち寄って、温泉が湧きだす例。圧倒的に弘法大師と行基が多い。まるで温泉採掘業のように全国方々に温泉を残している。

その3:歴史上の武者が発見したというもの。源頼朝や弁慶など。平家の落人や豊臣の落武者が偶然に発見したというのも、これに含まれるかなぁ。

その4:神さまや仏さまが夢枕に立ってお告げをする例。薬師如来や不動明王や、弁天さま、聖徳太子が出現する例もある。温泉の発見者に「どこそこを掘りなさい」とメッセージする。その通りに掘ると温泉が現れる。シュリーマンのトロイ遺跡発掘を思いだしてしまう。

その5:伝説上の動物が出現。その場所から温泉が湧いたという例。白龍が現れたり、河童や鬼の温泉もある。

それぞれの由来が本当かどうかはわからない。だが、そんな由来を聞くと「何となく、御利益がありそうな」温泉に感じられるものだ。
そんな気分に浸りたいために、人吉温泉の由来も知っておきたいなと思ったまでのこと。
ところが・・・。
人吉温泉に関しては、その由来に関する記述がどこにもないのだ。人吉温泉のホームページにも書かれていない。
これは何を意味するのだろう。
人類発生前からあった温泉ということで、由来は測定不能なのだろうか?それとも、あまりのおごそかな由来があって、人吉地区でそれを語ることはタブーになっているのだろうか。
調べても、どうしてもわからない。気になって人吉観光温泉協会に電話で問い合わせた。
電話に出た方は「由来ですか?しばらくお待ちを」
しばらく待つ。協会も調べている。
「わかりました。翠嵐楼という旅館が明治四十三年に温泉採掘に成功して、それから拡がりました」
「あのー。弘法大師とか鹿とか神さまのお告げとかは、関係ないですか?」
「残念ながら、ないようです」
残念。
うーむ。そこいらに人吉温泉のロマンとか神秘性が欲しいなぁ。その旅館が何故採掘を思い立ったか・・・というあたりで伝説を組み入れて夢が広がると思うんですが・・・!どうですか?

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