Columnカジシンエッセイ

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Column - 2006.06.15

第18回「大畑(おこば)梅園のハルシメジ」

大畑梅園をご存じだろうか?
人吉のはずれ。国道二二一号線をえびの市方面に南下すると大畑梅園の表示がある。
なんと、そこには五千本の梅の木が植えられている。
二月下旬から三月上旬は多数の観光客が訪れるそうである。

で、なぜ、大畑梅園かというと、私は大のキノコ好きなのである。
あっ、話が見えないと思うのでもっと詳細に語ります。

私は熊本市内に住んでいるが、春になると、このハルシメジを探し回る。
で、ハルシメジがどこに発生するかというと、果樹園や野バラが生えた土中からなのだ。梨や桃やリンゴなどの果樹園で発生するそうだが、一番確率高く見つけることができるのは、……そう……。
梅園!
梅の木の下である!!
だが、梅園を探し出して数十本の木の下から採れるのは、うまくいって二十本そこらのハルシメジ。
このハルシメジ。とにかく歯ごたえが良くてシャキシャキしている。天ぷらはついでに採ってきたタラの芽と一緒に。お塩をぱらりと振りかけると、酒に合う。油と炒めて相性がいいので、スペイン料理のパエリアにも、オリーブオイルで炒めて混ぜ込むと、見事な調和を発揮する。味噌汁にも……と欲深に考えていると、この程度のハルシメジじゃ足りないよなぁということになる。
もっと大量のハルシメジをゲットしたい!
そのためには、でっかーい梅園に行く必要がある。そうすれば心置きなくハルシメジ料理をフルコースで堪能できるのだぁ。
そんな、でっかーい梅園はないものかと探していたときに、ひょんなことから人吉大畑梅園の存在を知った。
まず、聞いたのは五千本の梅の木が高台に植えられているということだ。それが本当だとすれば、そこはハルシメジの山だということになる。
その名も人吉大畑梅園。
もし、その情報が真実ならば、どれくらいのハルシメジが採れるものだろうか。
籠いっぱい!
いや、そんな生やさしいものではないはずだ。ひょっとすれば、車のトランクからキノコが溢れる状態になるほど採れるかもしれない。そしたら天ぷらだろうが炒めものだろうが食べ放題ではないか!
その状況を想像して高笑いがでた。
行かずになるものか。
その年、桜満開の時期を迎えた頃、はやる心をなだめすかして、高速で人吉へ向かう。もちろん、前日に熊本市内の小さな梅園で数本のハルシメジを確認している。
時期に間違いはないはずだった。
高速を降りて、えびの方面へ向かう。標識に従って右折し、しばらく坂を登ると……。
震えがきた。視界一面、梅の木だ。
もちろん、すでに花々は散り終えているが、目的は、あの木々の下で私に採ってもらうのを待っている、いたいけなハルシメジたちなのだから。
広い駐車場は、がらーんと空いている。他に人の気配はない。キノコ籠とはさみを持つと、私は梅林に向かって駆け上っていった。
下草はあまりない。いいコンディションだと歩道から梅林に飛び込んだ。
歩く。歩く。歩く。
歩けども…歩けども…おかしい。ここには、一本のハルシメジもないのだ。生えてきた形跡もない。おかしい。これだけ梅の木があるのだ。斜面によって違うのか?
他の向きの斜面に登る。
そこにもない。……そんなはずは……。せめて…一本でも。
数時間、しつこく歩き回ったが、大畑梅園では、一本のハルシメジも見つけることができなかった。はるばる遠征してきたのに…。
これは、何かの陰謀なのか?これだけの梅林に一本も存在しないなんて……。
トホホだよ。それでも、しばらく探索を続けるが徒労。
諦めて、人吉を去る。これほど落ちこんだ時も、私のキノコ人生では無い。このままでは、不幸すぎる……。
大畑梅園のバカヤロー!!

熊本に帰り、家の近くの梅林をのぞいた。
なんと、私を不憫に思ったのか、昨日はなかったハルシメジが三十本ほど待っていてくれたのだ。

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