Column - 2006.06.16
第19回「山江村のヤマメおじさん!」
友人数人と、山江村に山菜を採りに出かけたときのこと。
もう、数年前のことになるか…。
あるキャンプ場をベースにして、皆で手分けして山菜を採ってくることになった。
採れた山菜は、お昼にキャンプ場で天ぷらにして宴を繰り広げようという計画。
全員が八方に散り、野辺の山菜を探す。
集合時間だけを決めておく。その時間に集合して、どの程度の獲物が集まるかで、料理の内容が決まるというアバウトなもの。
私も、ふらふらとあたりを見ながら畦道を歩く。山藤の花くらいを集めるのが関の山。イタドリとかはあるが酸っぱいし、ヨモギくらいか……と溜息が出る。
ヤマメの養殖場があるが、その近くから山道に入ってみた。
やはり、この時期の山菜の王様はタラの芽だよな。
そう考えながら。
だが、歩きはじめてわかった。
甘いもんじゃない。タラの木は山道沿いに点々とあるのだが、なんと、その先端に芽は付いていない。
先客が、早々とタラの芽をゲットした後のようだった。
ゲッソリした。藪の奥まで入ってみたが、同様に、タラの芽は、キレイに採られたものばかりだった。
数日の差だったのだろう。私は先客に考えつく限りの呪いの言葉を吐きかけて、キャンプ場へ戻った。
他の仲間たちも〝坊主〟である。
山藤とヨモギと、少々コシアブラとワラビ。それが、全収穫であった。
「これじゃ、酒の肴にならないよ」
と、いうことになった。
「そう言えば、ヤマメの養殖場があったから、買ってきて食べようか!」
私が言い出し、そうしようと三人で買い出しに出かける。
ヤマメ養殖場に到着。
だが、誰もいないのだ。ヤマメを勝手に持って行くわけにはいかないなと、途方に暮れていたら、道の向こうからトラックが走ってきた。
眼鏡のおじいさんが一人乗っている。手を振ると止まってくれた。
「あのー。ヤマメを買いたいんですが、ここの人いないんで、どうすれば買えるでしょう」
するとおじいさんが、「あーうちも、この向こうでヤマメやってるから分けてやってええよ」
軽トラックの荷台に乗って十分ほど走り、斜面を登ったところに養魚場があった。
「何匹ね?」
「五人だから五匹ほど」
おじいさんが、水槽のヤマメをすくい始める。
「おい!」
友人が水槽横の斜面を指差す。
そこにタラの木が……。立派な芽が付いた。
「あの!あの!おじいさん」
「何ね!すぐすくうけん待っときなっせ」
「あのタラの芽……採っていいですか?」
おじいさんは、作業をやめて「あ……五人分持っていきなっせ。まだ、あるばってん、少しは残しとかなんけん」
「はいっ!はいっ!」
おじいさんのヤマメすくいの横で、私たちは肩車でタラの芽を集める。大喜びだ。
大逆転の山菜採り。タラの芽があるとなしでは、かくも豪華さが変わるものか。ヤマメも信じられないほど格安にして、何と、軽トラックでおじいさん、キャンプ場まで送ってくれたのだ。
おじいさんのおかげで忘れられない山菜採りになりました。
でも、今でもおじいさんのヤマメすくいと斜面の肩車でタラの芽採りのイメージがセットで出てくると、すごく楽しい気分になるんだよなぁ。