Columnカジシンエッセイ

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Column - 2007.04.01

第29回「県民の敵」

タクシーに乗るたびに、運転手さんが言う。
「勝ちますかねぇ」
エッ、何が?
高校野球のことだとわかる。
さぁ?と答える。熊本からどこの高校が出場していたのかも、まったく知らないのに。
私は、スポーツはまったく興味がない。加えてスポーツ音痴である。
次のタクシーに乗る。
運転手さんが嬉々として言う。
「○○高校(地元)が××に勝ちましたヨ」
よく意味がわからずに、私は、「ハァ?」と答える。
すると、運転手さんは、不思議な生きものを見るような目で、バックミラーをのぞき、私を見る。
何がいけないんだよ。おれ、常識が欠けているのか?
高校野球の話題ができないと、県民の敵ということになるのだろうか?
これでは、いけないのではないか……。

その日も、熊本代表の試合があるらしいことを、朝からネットで知る。
よし、会話想定文をこさえよう。これで、県民の敵と後ろ指を指されることはないはずだ。
その日の夜は、編集さんとの打ち合わせだった。
深夜の帰宅です。
タクシーに乗る。
不思議にも、その運転手さん、高校野球の話題をふってこない。
どうしたのだろう?例外なく運転手さんは高校野球の話を始めるのに。
中には希に、私と同じようにスポーツにまったく興味のない運転手さんというのも存在するのだろうか?
あれほど、学習したのに。
運転手さんとの会話想定文も考えたのに。
熊本代表は△△高校である。まちがいないはずだ。
左門豊作の熊本農林高校とまちがえなければ、大丈夫のはずだが。
おかしいなぁ。黙っているぞ。
直感でわかる。このタイプの運転手さんは高校野球好きのはずなのだ。
間違いなく!
よせばいいのに、私から話をふってしまう。
「あっ、今日は熊本△△高校の試合はどうだったんでしょうね。たしか、今日勝てば、ベスト8進出のはずでしたよね」
しばらく沈黙。
その後、運転手さんが低い声で、
「負けましたよ」」
また、沈黙。
そんなことも知らないのかというように。
ひえええぇぇぇ。(自爆)

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