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Column - 2021.10.01

第203回 おもいでマシン

 本日は、かくも多数、私の新発明発表会にお集まり頂きありがとうございます。私は天才科学者なのですぐに大発明をしてしまう。だから発明なんて珍しいことではないのですが、今回は一般の参加者の皆さまにもぜひ発明の素晴らしさを知って頂きたいと、このような発表会のカタチにしたわけです。あまりに画期的な発明なので、お話したところでにわかに信じて頂けないかもしれない。
 理論上は先行していたのですが、現物は発表会寸前にやっと間に合ったという代物です。ですから、試験装着もまだ済ませていないのです。しかし、正しい製造法ですから間違いなく完成しているのです。
 さてこの新発明。名も先ほどつけたばかりです。
「おもいでマシン」といいます。
 なかなか趣のある詩的なネーミングだと思いませんか?
 もちろんこの機械がどのようなものなのかは、これからの実験でおわかり頂ける筈です。その前にできるだけわかりやすくお話します。
 人は一人づつそれ迄に生きてきた軌跡、すなわち人生を持っている。その人生の中では忘れられないおもいでなどというものが重要な役割を果たしています。ときおり人は生きていく上で立ち止まり、過去を心の中で再生させる。それがいわゆる、「おもいでにひたる」という行為です。
 私の発明した「おもいでマシン」は、その人の人生の中で心に刻まれているおもいでに、形を与えて具現化させ再生させる装置なのです。
 いや再生させるといっても、映像をモニター画面に映し出すといった単純なものではない。映像だけなら幾重にもCG処理して、よりリアルなものを作れるかもしれないが、本物のおもいでとは程遠い。
 本当のおもいでには、五感のすべてが含まれているものです。匂いや、音や声、そして肌触り、そのようなものが一体となっているものではありませんか?そして、おもいでが実体化したときには記憶にあるもののサイズも重要です。そのすべてを再現できるのが、このステージ上の巨大装置、おもいでマシンなのです。
 自分のおもいでを再現・実体化させたい被験者は、このヘルメット状の思考リーダーをかぶります。するとこれがおもいでを読み取り、マシンの中で空中の物質を集めて再合成させる。そして、おもいでを実体化するというわけです。おもいでの具象化という革命的発明です。
 さて、これから実験を行います。初実験です。自分のおもいでを実体化させてという方おられませんか?いかがです?遠慮されずに。あ、おられますか。さ、壇上に!
 ありがとうございます。どんなおもいでを望まれますか?初恋の女性を……いいですね。では、ヘルメットを。
 では、開始します。おもいでを思い浮かべて。初恋の女性は、どんな方ですか?
 幼い頃、憧れていた隣の家に住んでいたお姉さんにもう一度会いたい、と。今はどこにいるかもわからない。でも、あなたの心に生き続けているんですね。一生懸命思い浮かべて!
 マシンが動いています。少々音がうるさいが我慢して。
 ほら終わりました。おもいでのできあがり。マシンの把手を開いて。ゆっくり。とてもきれいな方だったのでしょう。わかります。
 うわあ。
 下がって!なんですか、これは。これが隣のお姉さん?ばけも……。いや、なんでもありません。胸が風船みたいだ。お尻がでかくて今にも破裂しそう。目もでかすぎ。まるで少女漫画の登場人物。髪の毛は……ないじゃないですか。髪は思い出せなかったって。
 そうか。あなたの頭の中で初恋のお姉さんは誇張されたんですね。そんなに泣かないで。画ごころがないからうまく思い出せない。わかります。私も子どもの頃から絵が下手だったからなあ。だから私、自分で実験しなかったんですよ。しばらくすれば消えますから、心配しないで。
 え、消えない。そんな筈は。おもいでが実体化するとそのままになる設定になっていたのか……。お待ちください。おもいでマシンの性能をもう一度チェックしてみますから。
 あ、ぼっちゃん、いつの間に壇上に。下りてください。いま、手が離せないから。
 あ、触らないで。そのヘルメットをかぶちゃダメですって!
 どうしたんです、ぼっちゃん。なに、ぼくもこのおもいでマシンを使ってみたいって?
 あ、ヘルメットをかぶってしまった!
 そんなに見たいおもいでがあるんですか?
 映画?今年見た映画で一番面白かったものをもう一度見たい、と。
 え?ブルーレイでとか映画じゃなくて本物で見たい!
 あ、あ、おもいでマシンが動き出した。どんどん膨れあがっている。もうすぐ破裂してしまいます!いったいなんの映画だったんです?ヘルメットをはずして下さい。
 え、大巨獣ゲスラ?それは怪獣映画じゃないですか?
 うわぁ、マシンが爆発してしまう。おもいでの大膨張だ。
 会場の皆さん、一刻も早く逃げて下さい!ひええええっ。

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