Column - 2007.06.01
第31回「恩を仇で返される」
数週間前のできごと。
夕方、煮詰まってしまった仕事。鼻と唇の間にシャープペンシルを挟み、ああでもない、こうでもないと沈思黙考状態。
そんなとき、通りを一台の車が走る。マイクで叫びながら。
広報車だ。
「血が不足しています。皆さまの献血のご協力をよろしくお願いします」と。
煮詰まっていてもしかたがない。気分転換に善行を施しに行くかと、指定の献血場所へ。
私は血管が細いらしい。
かわいいお姉さんが私の担当になったのだが、検査採血の段階で、うまくできないのだ。
かわいいお姉さんが「すみません。お願いします」と他に助けを求めて叫ぶ。
すると、意にそわないオバちゃんが採血してくれることに。
その後に血圧を測ってくれたのだが、「高くなってますね。でも、献血は大丈夫です」と言われる。
意にそわないオバちゃんでなく、かわいいお姉さんだったら、そんな血圧ではなかったろうにと思う。
話していて、その時期は血が不足すると聞かされる。
二〇〇CCと思ったら四〇〇CCをすすめられる。気が小さい私は断れない。
血を抜かれながら、おれの血は誰にいくのだろうと、夢想する。願わくば、難病にかかった、いたいけな美少女の女子高生の体内に入って頂ければと、強く思う。
月日は流れる。それからしばらく経ち、献血のことも忘れ去った、ある日。
仕事場から帰宅し、食卓について驚く。
まるで、病院食みたいな夕食が目の前にある。驚き、呆れる。
な・なんだ、今日の晩飯は‥‥。
その横に一枚の葉書が。献血のお礼の葉書だ。
開いてある。家人が勝手に開封したらしい。
「なんですか!このコレステロール値は?」
ギクッ。
反論できない。
その葉書には血液検査の結果も記してあるのだ。
チッ。余計な真似しやがって、と舌打ちする。
あわてて数値をチェックする。
たしかにコレステロール値が上がっている。だが、許容範囲内であることがわかる。
胸を撫でおろす。やっと口応えする余裕が生まれる。
「標準の範囲でしょう」
「コレステロール値が二〇〇超えたら、廃人一歩手前です」
竹槍を出したら、重爆撃で反撃された。
ひどい言われようだ。私が廃人なら知り合いはゾンビだらけだ。
なんで、おれだけに!!
しばらくは病院食みたいなのが続くらしい。
くそっ!献血車。恩を仇で返しやがって!
「あのー。お酒‥‥」
「今日のカロリーは、それで十分ですっ」
シュン。