Column - 2011.07.01
第80回 転がる昼飯
タイトルを読んで、「おむすびコロリン」みたいな連想をされた方がおられたら、はずれです。
つい、この間の日曜日のこと。
熊本県の北の方にある町で長洲町というところがあります。玉名市の隣あたりで、もっと北は福岡県の大牟田市であります。
その長洲町で、日本一の規模の太陽光発電施設が稼動し始めたことを知りました。日当たりの良い遊休地を利用しているらしい。
そのメガ・ソーラー施設は誰でも見学させてもらえるらしい。
娘夫婦に話したら興味を持った様子。孫を連れて見学に行くという。
その日は、私も特別な予定が入っていなかった。そして、ふと長洲町にフレンチのおいしい店があったことを思い出す。
「私もドライブに連れていってくれ。ランチでフレンチを食べたくなったから」
そういう経過でドライブがスタート。
長洲町に到着したのは、十一時前頃。
車中で、太陽光発電を先に見るか、フレンチのランチを先に食べるかという議論に。とりあえず、フレンチを先に、という結論になりかけたとき、孫が……。
「フレンチって、どんなたべものなの」
「うん。コースになっていて、テーブルに座ってナイフとフォークを使って……」
「えーっ。そんなの厭だ!」
あっという間にスケジュールはひっくり返ってしまった。
「その店はおいしいんだよ」
「いやだ。いやだ」孫は一歩も引かない。このまま、お店に入ってからトラブってもまずいなあ。
「もう少し、お昼まで時間があるから、大牟田まで行ってみようか」と娘。「味噌ダレのおいしい焼肉屋があるって聞いたことがあるから」
それでどうだということになった。娘の旦那も、孫も、私も、肉は好きだから異存はない。
「それでいいよ」
一路、車は北上して昼飯を食べるのに福岡県に入ることに。
「その焼肉屋の名前はなんというのだ」
「なんちゃら・かんちゃらと言ったと思う。たしか大牟田駅から、そう遠くないって」
「JRの大牟田駅?西鉄の大牟田駅?」
まるでコンニャク問答みたいに店を探していると、道路標識が。
そして〈柳川・大川〉の文字も。
「へぇ。柳川かあ」と私が呟くと娘夫婦は「柳川は、行ったことないなあ」
「ああ、あそこは、ウナギがうまいんだ」と私は呟く。
すると孫が「ウナギ?おいしそう」
娘も「ウナギは、ずいぶん食べてないよね」
そう言えば、私もずいぶん食べていないことに気がついた。
「じゃあ、柳川にウナギを食べに行くか!」
私が思わずそう宣言したら、全員が「賛成!」
フレンチのランチでスタートしたはずの昼飯が、転がる転がる。
結果的に、柳川に到着したのは、お昼をまわった頃。
で、私以外は、柳川は初めてだったので、
私がガイド役。とりあえず、自動車を駐車して、あたりを見回すと、右も左も「蒲焼き」「せいろ蒸し」「ウナギ」の看板が。
「どこに入ったらいいのかわからないよ」
「まてまて。携帯で、どこのウナギ屋がうまいか評判を探してみよう」
最終的に、二軒のウナギ屋に絞り込みましたが、まだまだ昼飯は転がりそう。
「こちらは歴史があってせいろ蒸しが有名みたいだよ」
「ポイントは同点で、こちらが近いと思うなあ。あっ、あそこだ。けっこうならんでいるよ」
「どっちにしよう。選べないよ」
結局判断がつかなくなり、孫に「この二軒のうち、どちらか選んで!」と選ばせる。
「じゃあ、こっち」
結局、由緒あるウナギ屋さんへ。私と義理の息子はせいろ蒸し。娘と孫は蒲焼き。
皆、うまい、うまい、と。よかったなあ。
ついに落着くところに落着いたわけか、と。
それから掘割りのまわりを川下りする小舟を見ながら、腹ごなしにそぞろ歩き。魚屋に、なつかしや、イソギンチャクがあったので、その日の夕食はイソギンチャクに決定。
で、皆で、こんなふうにころころと目的を変更しつつ走らせるドライブも楽しいなという結論になりました。
あまりに、転がりすぎて、本来の目的だった太陽光発電施設を見ていなかったのを思い出して、長洲町へ引き返したのは、もう陽も落ちようとする時刻だったことを申し添えておきましょう。