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Column - 2022.10.01

第216回 銃の言い分

 殺しの仕事なら、まかせておきな。俺はプロの殺し屋だ。お手頃お値打ちな価格で殺しを引き受ける。あなたには憎くてたまらないやつはいないかね。何度殺してもあきたりないように憎いのだが、自分の手で殺すほどの勇気はない。そんなあなたのような人が世の中にはたくさんいて、俺のような殺し屋を重宝してくれる。俺はいつも愛用の拳銃で百発百中の殺しをやっているんだ。俺なら金さえ払ってもらえば、すぐに殺し実行だ。途中で気が変わった、殺すのをやめてくれは手遅れだから、頼む前によくよく考えておくことだな。殺した奴は生き返ってくれないんだ。
 そんな殺し屋家業を何十年続けてきたやら。こだわりがねえ。使い馴れた拳銃でないと殺しの仕事に自信が持てないんだよ。ちょいと困ったことが最近あってねえ。愛用の拳銃の弾丸だが、もう商売繁盛で在庫が切れそうだ。銃器店の親父に取り寄せを頼むと申し訳なさそうに言ったよ。「実は、弾丸は製造してないんですよ。今、使っておられる弾丸が切れたら、どうしようもありませんや」それじゃあ殺し屋家業もできないってことじゃないか。最近、愛用の拳銃を撃つと標的に当たる位置にズレが生じるようになって、どうしたもんだろう、とぼんやり考えていたんだが、弾丸なしじゃ、根本的に解決できないということか。それじゃあ、どうすればいい?銃器屋の親父は、肩をすくめたのだ。「新しく買われててはいかがですか。そして馴れるしかないでしょう。愛用の拳銃とよく似たものもございますよ。そちらの銃なら弾丸の在庫も十分にございます」
 そろそろ愛用の拳銃も新しいものに買い換える時期なのか。覚悟を決めたさ。新しい銃も扱い方はほとんどこれまでの銃と同じじゃないか。これはいい。ただ、気になることを銃器屋の親父は言った。
「弾丸が製造中止になったのも銃規制が進んだおかげなんですよ」
 射撃場で標的を撃ったが、これまでの銃と使い勝手は変わりなかった。問題ないさ。これにしよう。もちろん、銃器屋の親父は俺の職業を知らない。「新銃規制法クリア商品です。心してお使いください」そのときもっと詳しく尋ねておくべきだったのだ。新銃規制法クリアの銃とはどんなものか、と。何、試し打ちのときもあれほど標的によく命中したではないか。問題はない筈だ。
 そのうちに新しい仕事が入った。商売敵を殺してくれという依頼だ。なんということはない簡単な仕事だった。殺しの相手に近づき急所を狙って引き金を引く。それだけだ。
 相手が一人になったとき俺は近づき銃口を向けた。「何者だ」という声には応えず引き金を引こうとする。
 動かない。なんだ!大事なときに。
 それどころか、突然そのとき拳銃が話し始めた。
「あなたは人に向けて私の引き金を引こうとしています。あなたに引き金を引く必然性はあるのですか?」
「俺は殺し屋だ。引き金を引かないと仕事にならない」慌てて拳銃に言う。
「では正当防衛ではないのですね」
「当たり前だ。もたもたしていたらこっちの身が危くなる」
「では、殺しを行うとして、それは社会的に許される殺人ではないのですね。そして今は戦時ですか?」
「戦時中なら殺人が許されるというわけでもないだろう」
「国に許可されていますか?」
「国は関係ないよ」
 銃と話していると殺しの相手が大声を出して助けを求める。すると数人の黒づくめの殺し屋が現れて、俺に銃口を向けてきた。
「この殺し屋をやってしまえ」と標的が俺を指差す。しまった。多勢に無勢だ。すると……。向こうの殺し屋たちの銃も喋り始めている。
「あなたは一人の相手大勢で撃とうとしています。許されることですか?」
「あなたは発砲を受けましたか?発砲されていないのに、こちらから先に撃っていいのですか?」
 相手の殺し屋の銃たちもそれぞれに持ち主の殺し屋に殺人の正当性に疑問を投げかけている。中には「わかりました。ここで正当防衛だとして、敵は弾丸を撃っていません。では弾丸はどう考えているんでしょうか?」
「私は弾倉にいますが人間を傷つけたくありません」なんと弾丸も喋っている!!
 拳銃だけでなく、弾丸にまでも平和主義化したAI(人工知能)が埋め込まれたらしい。新しい銃規制法をクリアして販売される銃がこのようなものだとは。拳銃で自殺しようとすれば、思いとどまるよう説得するのだろうか?すべての新たに販売された拳銃がこの仕様になっているなら、確かに人を殺傷することはなくなるだろう。しかし、なにか方法はある筈だ、俺の殺し屋としての存在が残っている以上。
 俺は、銃に話しかけた。
「おい。じゃあお前の存在理由はなんなのだ。銃口を持ち弾丸がある。照準、そして引き金はなんのためだ。俺に殺人はいけないと説教するためだけにこの世に生まれてきたのか?違うだろう。引き金を引かれ、銃口から弾丸を発射するのがお前の存在理由だろう!」
「そうですね。仰る通りです。引き金を引いてください」
 やった。俺の説得が通じた。
 相手に向けて引き金を引いた。
 凄まじい銃声とともに俺の目の前に万国旗と花吹雪が飛び出てきてキラキラと舞った。

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