Column - 2011.12.01
第85回 天草の映画館へ行く!
昔から映画が好きで好きで、年間に250本ほど劇場へ足を運んで観るんです。ですが、映画館の数も減りましたねぇ。
私の子供の頃は、近所にも数軒は映画館がありました。だから私の情操教育は、映画館がやってくれたような気がします。
映画が好きなので、自分の作品の中にも、映画館を登場させたりします。「壱里島奇譚」という作品でも、天草の離島で閉館になった壱里映劇という映画館を出しました。
このときの映画館の描写は、すでに閉館になった阿蘇は小国の映画館を参考にして描写しました。
天草も本渡に本渡第一映劇という劇場があるのは知っていましたが、足を運んだことはありませんでした。エマノン・シリーズの「しおかぜエボリューション」でも天草の映画館が登場しますし、前述の壱里島奇譚もそう。なのに、一度も行っていないとは!
実は、春に花見の席で本渡第一映劇の館主である柿久さんと知り合いました。
「秋に映画祭をやるので、天草に来てください」
「行きます。行きます」と安請け合い。
で、「天草シネマパラダイス2011」が本渡第一映劇でスタートしていたので行ってきました。
貴重ですよ。今や大型シネコンだらけなのに、映画館が残っているというのは……。
などと考えながら熊本市から2時間のドライブ。下島の天草市は本渡バスターミナルの近く。
愛車で探しながら……ビルの一階に映画のポスターが出ている。ここか!到着したのは朝十時。女性の方が看板を出しています。
「すみません、ここいらに有料駐車場ありますか?」
「映画ご覧になるんですか?」
「はい!」
「じゃあ、映画館の横に駐めてください」
なんと、駐車場付き映画館とは……。その女性の方が宣伝部チーフの田中さん。入場して、何とも懐かしい雰囲気。モギリの横のガラス棚には飲み物や菓子類が売ってあります。
昭和の映画館です。
名画ポスターがずらりと貼られてます。
中に入ってみました。客席は本当にコンパクト。87席です。で、見上げると二階席があります。スクリーンの横には、若き日の高倉健の立ち姿の手描き看板が。横には「天草映画祭」と書かれていました。
まさに「壱里島奇譚」の壱里映劇と同じだあ。
そこに館主の柿久さんが登場。挨拶の後、「二階も見てくれませんか?」
もちろん見ます。狭い階段の途中にはフィルムが置かれています。階段の壁には、ポスターがまたしてもズラリ。何と「マタンゴ」の手描きポスターまで。
「誰が描いたんです?」
「上手い人がいるんですよ。あ、映写室も見ませんか?」
ダクトのついた映写機が。その横に上映作品の予告フィルムも。
今回の上映作品は五日ごとに以下の作品。
「東京原発」「幸せの経済学」/「にあんちゃん」「ルバング島の奇跡 陸軍中野学校」「ヘブン」/「拳銃無頼帖 明日なき男」/「その夜は忘れない」「緋牡丹博徒」/「キューポラのある街」「13デイズ」「秒速5センチメートル」/「赤線地帯」「TOMORROW明日」「瞳の奥の秘密」でした。
たまたま、そのときの昔の予告編の話。
「この予告編を一度上映したら、凄く酸っぱい臭いがするんですよ」
臭わせてもらうと、明らかに薬品の臭い。フィルムの保存のためなのか……鼻がもげそうな臭いでありました。古い映画の予告編かあ……。キューポラの臭いかなあ。
「どうですか?」
「いや、正直きびしいです。一人もお客さんが来て頂けないこともあるし」
でも、フィルム上映が可能な、地域の人たちがでかいスクリーンで観られる貴重な場なのですよね。
「コーヒーどうぞ」と田中さんから。こんな映画館は信じられません。アットホームというか。
で、作品リストを見て気になったこと。セレクトされた作品がややバラバラ過ぎる気がするんですが。
「どうやって、作品を選ばれたんですか?」
柿久さんが千葉真一好きなのはワカル。他の作品は?
「自分の見たい作品をスクリーンで観る!というスポンサーがいるんです。その方がフィルム代を負担されるケースもあるんです。今回の「ヘブン」「拳銃無頼帖」「秒速5センチメートル」がそうですね。後は、ぜひ観てもらいたい作品。だからこの映画祭は”自分映画祭”でもあるんです」
そう聞いて、ストンと納得できた気がしましたよ。”俺様映画祭”か。いいなぁ。リクエストしてフィルム代さえ負担すれば、大スクリーンで上映される映画祭のスポンサーになれるわけです。あなたも、心の映画を映画祭で上映して貰ったら?
そして、ここではデジタル上映ができないんです。フィルム上映だけ。その欠点を逆手にとって、フィルム上映だけをやる天然記念物的映画館として残していくべきだなぁ。天草の文化遺産として。いつも時代劇観れたり。
昭和の時代にタイムスリップできることをお約束します。天草に行ったら、ぜひ本渡第一映劇に立ち寄ってみてください。