Columnカジシンエッセイ

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Column - 2012.03.01

第88回 春のおたのしみ

三月と聞いたら、皆さん何を連想されるでしょうか?
 雛祭り?
 九州の方だったら、下旬からの春休みにタイミングを合わせて咲き乱れる桜、そして、その下でお花見というイベントでしょうか?
 私ですか?

 秋は、山に入ってキノコを探す日々を続けておりました。年が明けてモノクロームの冬の時間は、部屋の中に籠ってアウトドアの楽しみに縁のない時間を過ごしています。春になると、春の楽しみがちゃんと巡ってくるのです。
 木の芽どき、という言い方があります。奇妙な行動をしでかす人々が増加する時期でもあるようです。そんなときは「木の芽どきだからなぁ。気をつけなさいよ」と諦めたように口にします。つまり、新芽が芽吹く頃は、その陽気が精神に影響を与えるということですね。
 私も多大な影響を受ける一人であります。もっと直接的な理由で。
 山菜採りが、春の楽しみなのですよ。一般的に、ホワイトデーが過ぎた頃にベニヤマタケが阿蘇外輪山に現れ始めます。それからが山菜採りの開幕ですね。ワラビ採り、タケノコ掘り、そんな山菜採りが有名ですが、私が一番好きな山菜採りは、タラの芽でしょう。
 これもキノコ採りと同様で、山の奥に分け入っていきます。
 こちらも、一番いい時期に採りにいくタイミングを見計らっているわけです。最近は栽培もののタラの芽も出回っているのですが、天然物は全く違う。そのサイズといい、歯ごたえといい、食感も、味の奥深さも、早い話が、別の食べものなのです。しかも、春になったからと言って、ずっと食用に適した木の芽状態でいてくれるわけではありません。数日タイミングを外しただけで、タラの芽はタラの葉っぱと化してしまうわけであります。(ま、食えないことはない。悔しさ紛れにタラの葉を採って帰って天ぷらにして食った奴もいますが、彼は芽よりこっちが美味いと言い張っていたなぁ)
 だからホワイトデーが過ぎたら、物置から鎌を取り出して、砥石で研いで手入れしておきます。この鎌は特製です。自分でこしらえたもの。ポリ塩化ビニール管のパイプを150センチくらいに切ったものに小型の鎌をはめ込み、釘を打ち付けて固定したものです。
 これが重宝するんです。
 一緒に物置から引っ張りだすのは山菜籠。蒸れませんからね。
 で、闇雲に出かけるわけではありません。
 タイミングが大事と申しましたが、そのタイミングをどうやって知るのか。その年によって、早い、遅い、が当然あるのです。
 で、我が家の隅にタラの木を植えている。  
 つまり、このタラの木に芽が出てきたら、間違いなし。タラの芽採り標準木であります。
 そして、この標準木に芽がでたら、第一弾の出撃。
 いつもの、自分のタラの芽畑と名付けている場所へ。えーと、念のためですが、登山靴です。山の中の道とは言えない斜面を移動しますからね。必ず長袖を着用すること。ズボンも厚いものを。山歩きではジーンズは膝が曲がらないから良くないですが、山菜採りでは良いようです。そして帽子と厚い手袋。
 とにかくタラの木は刺が凄いんです。しかも数メートルの高さの幹の先端にタラの芽が付いている。だから、一人で行くよりは二人で行くことをお奨めします。
 一人が刺だらけの枝の先に鎌を引っ掛けてたわませ、もう一人が先端に付いたタラの芽を採取する。一人でやろうとすると、タラの木の枝が折れてしまうリスクが増加する。
 で、若い芽は必ず残すこと。全ての芽がなくならないように。タラの芽は、それからも二番芽、三番芽まで出ますから、後の芽も残しておく。これが、自分に課したルールです。タラの芽を採っていると、同時にハリギリやコシアブラの新芽を探し出したりもします。これも天ぷらにすると美味しいんです。
 必要量確保する頃には、結構斜面を歩き回って、泥だらけ。指を防護したつもりでも、チクチク刺が刺さっている状態ですが、大漁のときは、高揚感でそんなこと、何でもありません。
 で、ここを引きあげ、もう一カ所。梅林にハルシメジを探しにいくんです。そこで、春のキノコを確保したら、行きつけのおそば屋さんに。そこの大将に我がままを言って、採れたてを天ぷらにして頂くんです。その揚げたてをパクッ。
 これを至福と言わずして、何が至福。
 ああ。想像しただけで、堪りません。
 タラの芽の採れる場所ですか?
 もちろん秘密ですが。

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