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Column - 2012.05.01

第90回 白鳥山のヤマシャクヤク

凄まじく運動音痴なくせに、山歩きだけは好きですね。
 なぜ山歩きが好きかって言うと、3月のこちらのコラムにも書きましたが、山菜を採るのが大好き。それにキノコやらを採るのも。
 食い意地が張っていて卑しいんです。お店では売っていないグルメな食材を集めに行くのが、ほんとに好き。
 あ、もちろん体を鍛える効果も期待しています。若い頃は気にならなかったのですが、この年齢になると、
「血圧が少々高いようです」

「血糖値が糖尿病の境界型に入っていますねぇ」
「もっと血液をさらさらにしないと」
「腹回りはあと6センチ、体重もあと5キロは落とさないと、メタボリック症候群ですよ」
などと言われ続ける始末。そんな病気予備軍の私に渡されるパンフレットを熟読すると、必ずこう書いてある。
「運動しなさい!」
 運動は嫌いなんです。スポーツって必ず競い合うじゃありませんか。どちらかが勝ってどちらかが負けなければなりません。
 それが嫌なんですよ。
 しばらく、テニスやらバドミントンやらやったこともありますけどね。でも、あんな競技って、相手が打てそうにない場所を狙ってタマを打つじゃありませんか。
 意地が悪いと思いませんか?相手がミスしたら勝ちだなんて寂しいです。
 だから、スポーツが嫌なんですよ。心がねじ曲がってくるような気がして。(あっ。悪意はありません。あくまでも個人の感想です。お許しを)
 で、その中で唯一自分に向いていると思った運動がこれ。山歩きでした。
 自分のペースを守るだけでいいんですよ。誰かと勝負を決することもない。頂上を極めなくてはならないということもない。自分で想定したコースを歩くだけ。そして、山の恵みの、美味しいものに出会える。素晴らしい眺望も満喫できる。
 そして、も一つ。季節が味わえるんですね。
 いつ行っても同じ光景が広がっているわけではありません。四季によって異なる表情を山は見せてくれます。
 中でも、今回タイトルに使った白鳥山。数ある山の中で一番好きな山です。
 あ、誤解がないように。日本中に白鳥山という名前の山はいくつかあります。九州にも韓国岳の隣にひとつありますが、私の大好きな白鳥山は、熊本は五家荘の山なのです。自然林が広がり、岩は苔むしています。樹々はブナやイチイが目立ちます。昔、源氏の追手を逃れて平清経が潜んでいた山中の住居跡、そして石灰岩の巨石群、ドリーネ、御池と呼ばれる湿地帯。そんな見所がいっぱいなのです。霧が出てくると、幽玄な世界に変化します。鹿の鳴き声を遠くで聞くと、まるで異次元に迷い込んだみたいな気分になるのです。あまりメジャーな山ではないので、登山口から登り始めて帰り着くまで、一人も他の登山者と出会わないこともよくあります。
 あまりに好きな山過ぎて、自分の小説の舞台にしたほどです。一作は「未来の想い出」。もう一作は「インターネットの香保里」というジュブナイル小説。よろしかったら読んでみてくださいませ。
 さて、白鳥山を5月に紹介しておりますが、私は毎年中旬に必ず登ります。
 何故かというと、中腹に何ヶ所もヤマシャクヤクの群落を見ることができるのですよ。
 ゴールデンウィークまでは、花には縁のない光景なのですが、中旬に入ったらヤマシャクヤクが次々に開花するんです。ドリーネ近くに咲くのが一番早いかな。1時間近く登山口からぜいぜい登りつめ、目的の斜面に視界いっぱいのヤマシャクヤクの群落を見た時の感動は、伝えるのが難しい。百聞は一見にしかず、と言いますが、まさにそのとおり。ヤマシャクヤクの花は直径が7、8センチの大きなもの。色は純白です。それが一面びっしりと咲いていると、ここが山の中ということが信じられない。お花畑にいるのか…と思えてきます。
 そんな群落が、あちらにも、こちらにも。
 そこまで来れば、頂上はすぐなのですが、正直なところ頂上にはあまり興味はありません。景観も得られないし、ただ狭いだけ。
 で、頂上を抜けて隣の時雨岳に向かうルートがあるのですが、この道沿いにも群落があるのです。
 ヤマシャクヤクの色は白と相場が決まっていますが、この辺りに稀にピンクのヤマシャクヤクの花が咲くことがあるらしい。今年こそ目撃したいと、いつも狙っているのですが、まだ出会えたことはありません。
 さあ、今年も、ヤマシャクヤクの季節が近づいて来ました。出会えるのは十日程しかありません。わくわくして、ならないのです。
 さらに、今年はもうひとつ、大きな野望を抱いています。
 今年の5月21日は、金環触が観測できるのですが、私の住む熊本市は部分触でしかないようです。
 ところが……。白鳥山では、金環触が見れそうなんですね。
 よしっ。
 ヤマシャクヤクの群落の上の金環触。
 なんてロマンチックなんだろう、と思いませんか?
 そのつもりで、いるんです。

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