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Column - 2023.04.01

第222回 かつて地球があった場所

磁渦宇宙船は、かつて太陽系第三惑星が存在した場所で静止した。その横にはすでに形状も推進機関も異なる数隻の宇宙船が空間係留されている。中央には、宇宙船の者たちにとっては未知の文明装置が浮かんでいた。そして、そこに、装置を囲むように巨大なリング状観察所が設けられていた。
磁渦宇宙船からリング状観察所にパイプが伸びる。接続が終了すると、宇宙船内部から数名の乗務員が無重力の中を遊泳して観測所へと移動していく。4本の腕を器用に動かすと宇宙空間でも容易に活動できるようだ。観測所に辿り着くと、すでにそこには先客がいた。他の宇宙船の者たちだった。まるで昆虫のような複眼を持つ宇宙人や、液体酸素のシールド服で全身を覆っている宇宙人、全身から粘液を出し続けるスライム状の宇宙人。他にもいろんな宇宙人たちが。4本腕の宇宙人が皆に挨拶をすると、他の宇宙人たちもそれぞれの風習や流儀で挨拶を返してくれた。万能翻訳機のおかげで、全ての宇宙人たちが自由に会話できるようだ。4本腕の宇宙人が言った。
「あれが、この空間で発見された装置ですか。ということは、あれはかつてここに存在した地球の奇蹟的に残った遺物ですか?他に、残っている遺跡とかはないのですか?」
彼らは汎宇宙知性連盟の星々のメンバーだった。姿形こそ醜かったりいろいろだが、それぞれの生命とも高度に知的なものばかりだ。
装置の近くにいた羽を持つ宇宙人が一同のリーダー的立場のようだ。
「そうです。ここは地球と呼ばれていた惑星が存在していましたが、ある時、突然に爆発・消滅してしまいました。なぜ爆発を起こしたのか、原因も爆発に至る過程も不明のままです。完璧な消滅で、その原因は想像することしかできません。発信されていた電波の痕跡から地球には生命が存在していたらしいということは想像できますが、その発信元も存在していないので不明のままとなりました。超兵器の爆発、あるいは地球内での絶望的な戦争による消滅という可能性もありますが、今となっては知る術もありません。ただ、高度な科学技術を有していたと推測することはできるのです。なぜなら」と右の羽根を背後の装置に向けた。「今回、この宙域で発見されたこの装置は、そんな謎を解き明かしてくれるかもしれないのです。これは、その太陽系第三惑星“地球“に関する情報を蓄積した装置であると推測されます。このような装置を使いこなしていたのであれば、当然そうでしょう」と答える。
「その装置にはどんな情報が入っていたのでしょう」そんな疑問が発せられた。
「残念ながらまだわかりません。それがわかるのは今からです。皆さんに集まっていただいたのは、それをともに確認するためです。この装置には時限ロックが掛かっています。無理に解除すれば消滅するもののようです。その時限ロックがもうすぐはずれようとしていることがわかりました。地球消滅の謎も明らかになるかもしれないのです」
宇宙人たちは歓声をあげた。鳥型宇宙人の言う通り、地球製らしき装置の時限ロックが解除される音が響いた。表面の光の点滅が赤から青に変化した。
「こ、これは‥‥」
装置から宇宙空間に光が放たれ、鮮明な映像となった。誰の目にも見える巨大なものだ。これを見れば地球が消滅に至った経過がつまびらかになるのだろうか?そして、これがかつて存在した第三惑星“地球“の姿だというのか。
全宇宙人が固唾を飲んで映像を見守った。
まず、広大な水面。“海“という表示が出た。地球の表面はこのような風景だったのか。その海の中へ視点が移る。無数の生物たちが動きまわる。“魚“と表示される。そして海の表面を視点は移動する。陸地が見える。陸地は緑の植物で覆われている。植物は樹々そして草。生きものたちがいるのがわかる。無数の種類の生きものたち。それぞれが植物の根や果実を分け合い食している。そして、2本足で歩く知的存在も確認できた。これが、“地球“の文明を担っていた存在のようだ。二つの性は仲良く助け合い過ごしていた。人間というもののようだ。彼らはいくつもの種族があるようだ。表面が白いもの黒いもの赤いもの。それぞれの種族がいたわり合い、助け合っていた。おたがいが困ったときは持っているものを与え合う。人間たちはたがいに抱擁し合い、助け合う。他の種族だけとではなく、他の生きものたちをもかばい、尊重している。人々も生きものも、すべてが幸福そうに助け合って生きている様子が見てとれた。それを見ている宇宙人たちの心まで癒やされていくような気がする。全ての生きものたちが穏やかに平和にいつまでも過ごしている。
「なんとすばらしい。これほどにすべての生命たちがおたがいを尊重しあっている星は見たことがない」と称賛される。
「なのに地球は消滅したというのか?これは本当の地球の映像記録なのか?映像技術などはどんなものも作れるではないか?」
「では、なぜ、この映像を秘めた装置が時限ロックをかけられて保存されたのだろう。現実には今の映像に反して消滅し、地球の生きものたちが滅亡したんだろう?」
「確かに自らの手で地球が滅亡したことは間違いありません。この映像は、こうありたかったという虚像かもしれません。自虐的というか。その謎は時限ロックが解除された時間がヒントになるような気もします。解除日は地球では4月1日にあたるのです。それがなんの日時なのか」「そうですね。4月1日にロックが解けるというのはなんだか意味のあることに思えてならないのですが、それがなんなのか‥‥?」宇宙人たちは首をひねった。

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