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Column - 2012.09.01

第94回 旅に出ました。そのⅠ

海外旅行に行って来ました。
 数年前に釜山に行きはしましたが、これは期間的にも感覚的にも国内旅行の延長のような感じ。フェリーで行って帰ってくる。壱岐か対馬よりちょっと遠いところへへ2日ほど出かけた感じでした。
 10日以上の日程で、しかも飛行機に乗って海外旅行をするというのは、本当に久しぶりです。

 そんな長距離の海外旅行をやらなかった一番の理由は、飛行機が苦手だということです。離陸時のあの浮揚感も嫌いだし、この床の数メートル下は何も存在しない宙空なのだ、と想像しただけで、「ありえない」と考えてしまいます。飛行機が飛ぶ原理は頭では理解しているつもりですが、想像力のほうが私を捉えて離さないのです。他にも理由はたくさんあります。機内でタバコが喫えないというのもありましたが、数年前に禁煙に成功。以来、この点は問題ないのですが。機内が乾燥して喉がからからになるのも嫌ですね。長時間身動きできないから、エコノミー症候群になるのではないかという恐怖もあります。しかし一番の理由は、やはり高所恐怖症だということですね。
 SFを書いたりする人は宇宙船の描写をやったりするわけだから、飛行機なんてなんでもないでしょう。そう言われますが…。
 先日亡くなったレイ・ブラッドベリさん。日本で国際SFセミナーがあって、お会いできるかなと楽しみにしていたのですが、来日はありませんでした。理由は「飛行機が嫌いだから」
 ブラッドベリさんが日本に来なかったのは残念ですが、理由を聞いて嬉しくも思いました。「あ。僕と一緒だ」きっと、想像力が旺盛すぎると、恐怖が際限なく増殖するのでしょう。何せ、離陸と同時にカラスが吸い込みから飛び込み、失速して地面に激突、炎上みたいなイメージが、パターンを変えていくつも生まれるのですから。
 そんな飛行機恐怖症を乗り越えて、「行ってみようかな」と考えたのは、「行けるうちに行って、見れるものは見ておくべきではないか?」という考えに振れたことであります。
 以前は「とても2時間もタバコを喫わずにはいられない」というのが自分に対して海外旅行に行かない言い訳ですが。関係なくなったし。
 離陸時の恐怖が和らいできたのは、この年齡になって、想像力が摩耗してきたからかなと思ってしまいます。
 それから、自分の想像力の中に新しい経験を注入しておくのも良いかなと思ったからです。
 まだ行ったことのない土地を舞台に話を組み立ててみようか。新鮮なプロットが生まれるかもしれない。つまり取材。つまり仕事である。
 勝手な理由をつけましたが、旅行先はクロアチア、スロベニア。それからボスニアも。
 なぜ旅行先がそこになったのかというと、「遠い国」というイメージがあったからです。直行便がなくて、必ずどこかの国で乗り換えなくてはならない。下手すれば、一日近くたどり着くまでかかってしまうと書かれていた国。ところが、そのとき、たまたま直行便ツアーというのがあった。それで、発作的に申し込んだのです。
 月の3分の1を不在にするのですから、お受けしていた仕事は、出発の前日までに、すべて納品しておきました。しばらくは連絡とれませんということも言い添えて。
 だから、旅行前日まで仕事を続けていたおかげで、旅行先に関する何の予習をすることもなく、飛行機に飛び乗ってしまったのです。
 ぼんやりと知っていたのは、第二次世界大戦後はユーゴスラビア連邦と言っていたよなあ、ということぐらい。チトー大統領の死後、スロベニアの独立に続いて、いくつも民族紛争があって現在に至っているんだよな、という浅い知識しかない。通過はユーロでいいのかな?とぼんやり考えていたほど。だから飛行機の中で訪れる国のガイド本を読んで予備知識を勉強しました。泥棒を捕まえて縄をなうような所業ですね。
 訪れる場所と、その名所の歴史的背景をページをめくりつつ確認するのでありました。
 で、そこで初めて知ったのですが、訪れる場所に、やたら“世界遺産”が多い。
 “世界遺産”ってのは、人類が後世に残すべき自然や遺跡を、ユネスコが認定したものですね。日本では屋久島とか宮島とか石見銀山とか。阿蘇山や富士山でさえ、まだ入っていないんだよなあ。日本全国で44カ所だと思いましたが。
 で、日程を見てみると、ほぼ毎日、異なる世界遺産を訪れることになっている。激しいな!と思わず呟いたのは、なんと一日に2ヶ所の世界遺産を訪ねる日もあるんですから。
 予習をやりながら、機内ではビールを何杯もおかわりしておりました。その予習も中途半端なまま居眠りしていると、直行便は早々に最初の目的地、クロアチアのドブロヴニクに到着したのであります。
 空港を機内から眺めて驚嘆。
 ドブロヴニク空港、熊本空港より小さい!
 そして、もう一つ。機内で予習した本にはまったく書いてなかったこと。
 空港に入って出会う若い女性が、皆、美人ばかりであるということ。すらりとしていて眉目秀麗です。入国審査官まで美人ですよ!
 初めは、「空港だけ?こんな美人を揃えているのは?」思ったのですが、そうじゃなかった。

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