Columnカジシンエッセイ

RSS

Column - 2014.01.01

第110回 新年の目標

 年が明けると、自分の今年の目標を立てないといけないな、と思います。小学校の頃から身についた習慣ですかね。
 一年の計を立てないと後ろめたい気がします。だからといって、その計を一年立派にやり通したという満足感よりも、年末に、今年はあれも達成できなかった。これも守らなかった、という反省ばかりが湧くのはなぜでしょう。小学校の頃は予習・復習は必ずやるし、毎日、日記はつけますみたいな目標でした。日記とかは必ず三日坊主になっていましたっけ。
 高校の頃になると、ずるいもので、建前の目標と本当の目標の二本立てを作っていたような気がします。苦手な科目を制覇する!とか学年何位以内の成績になると親向けの目標を作る一方で、自分の目標は今年は何冊の本を読破するぞ!映画は五十本は必ず観るぞ!そんな感じ。苦手な科目の参考書は開きもしないのに、自分が読んだ本と観た映画のタイトルは手帳に丁寧に書き込んで、加えて自分が評論家にでもなった気分で、「今ひとつ結末にひねりが足りない」とか「登場人物に魅力が欠ける」「展開が安易な気がする」と余白にコメントしている始末。そういうことをやっていたのでバチが当たって、今では読者の方が「カジオは結末にひねりが足りない」とか「展開が安易だ」とか呟いておられるのではないかと怖くなったりするのです。
 社会に出ると、仕事の上でも「年間目標」の数字が重くのしかかり、胃が痛くなることばかりでした。
 そんな時代は、とにかく自分が何をどこまでやれるのか、ひたすら走り続けているだけでした。だから年の初めに目標を立てようというより、歳の瀬の除夜の鐘を聞く頃に「ああ、何とか今年もやり過ごすことができたのか」と呟くのが精一杯だったような気がします。
 そのうちに、時は流れ流れて専業作家宣言をして、年金生活者になったわけです。そうなると、今年の目標は「まだ書いていないあの話を書きたいな」とか「途中まで書いたままになっているあの話を完結させたいな」といったことをぼんやり考えるくらいになって、それだけなら、呑気なものだなと。目標を達成できなくても、まあ、なんてことないや、と考えておりました。
 しかし、数年前から、目標を設定せざるをえない状況が、闇夜の刺客のように訪れていたわけです。
 一度、このコラムでも書きましたが、脳梗塞の症状を起こして入院したことがありました。それで病院で全身をチェックしてもらったわけですが、要注意のポイントが出てくるわ、出てくるわ。まぁ、正直、腹回りと体重が気になってはいたのですが。そう。成人病注意報の数値であったわけです。
 それから、新たな年の初めの目標が突きつけられることになりました。体重はもとより腹囲、悪玉コレステロールの数値、中性脂肪、血圧。
 全てを正常範囲の数値に戻すための目標ができたわけです。そのためには、食事、運動の両面から努力しなくてはなりません。一日一万二千歩以上歩いて、腹八分のバランスの取れた食事。塩分を摂りすぎないように。
 運動を続けたおかげで、境界型だった糖尿病の数値も正常になり、体重も目標体重に。血圧も、やや低めかなというところまで改善できたのであります。
 来年は、もうこの目標も必要ないかな、と思っていたら、ある晩秋の日に、ちと変調を感じてしまいました。滑舌が以上に悪くなってしまって、まっすぐ歩けずに左に左に傾いて歩いてしまいます。で、病院へ。
 MRIを撮ってもらったら医師から言われました。「脳が壊れています」
 私の中でその言葉はけっこうショックでした。そのまま入院させられてしまいました。軽い脳梗塞をまたしても起こしてしまっていたのです。入院させられて脳の機能の検査を受けたのですが、そのときは、脳の詰まっていたところは、すでに正常に戻っていたようでした。だから、機能に問題なし。すぐに退院できました。
 退院してから、何に気をつけるべきかというと、「血液さらさらの薬を忘れずに飲んでください」だけです。血圧の薬も今はなし。
 つまり、年の初めに誓ったりする目標は何もないのです。そして、今のところ、何の後遺症らしきものもなし。
 そうか。人間の脳は十パーセントも普段は使っていないと言われているしなぁ。私なんか、人様よりもっと脳を使っていなかっただろうから、七十パーセント、八十パーセント脳が壊れたとしても、もともと使っていなかったところだから、影響なかったのかもしれないなあ。
 いや、待てよ。と、思っています。脳が壊れたおかげで脳がフル稼働を始めて、ひょっとしたら大傑作が書ける脳になっていたりすればいいなあ。
 ということで、今年はじめの目標は単純に「大傑作を書いちゃうこと」です。
 あ、一つだけ脳の後遺症かなと感じていることがあります。人には口にしてもいいことと、言ってはいけないことがあると思うのですが。どうも言ってはいけないことが、最近タガが外れて流れ出すという、制御の効かない状態に陥ってるなと自分で思うのです。これは後遺症じゃないかなあ。ま、いいか。
 今年もよろしくお願いします。

コラム一覧を見る