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Column - 2014.03.01

第112回 ショートショートを書いてきた…。

長編小説を書いていて、その合間にショートショートを書かなければならなくなると、思考のモードを慌てて切り替えなくてはならず、焦ってしまいます。それまで、物語のリズムの中で登場人物たちの性格を表現するような会話を考えつつ進めていて、ふと引き受けていたショートショートの納期を思い出し、慌てて手を付けるわけです。小説を書くことを生業としていると、ショートショートの注文を受けたときから、頭の中で予備スイッチが入ります。机に向かって書き始めると、すらすら話が出てくるのですか。と、よく質問を受けるのですが、そんなことはありません。もしも机に向かっただけでアイデアが次々に湧いてくる方がいたのであれば、私はその方が羨ましくて仕方ありません。予備スイッチが入るといっても、すぐに必死でショートショートのアイデアを考えるというわけではなく、しかし、心の深いところでもやもやと燻り続けることになります。良くしたもので納期が近づくと、いくつかのアイデアが脳裏に生まれている。もちろん、ぼんやりとしたアイデアだけなので、これを膨らませてショートショートに加工しなければならないわけですが。
 私にとっては、SFとの出会いとショートショートとの出会いはほぼ同時期です。どちらも小学六年から中一にかけてでした。で、ショートショートは星新一さんの「人造美人」あたりでした。小学生高学年にとって、星新一さんのショートショートは本当にびっくりでした。何より、数ページのお話の中に奇想天外が詰まっている。宇宙人や未来の機械や不思議な出来事が書かれている。吸い込まれるように読み進めていると、あと数行で話が終わろうとするときに、予想もできなかった、驚きの落とし穴が仕掛けられているのですから。
 その頃、私は毎月SFマガジンを買って読んでいたのですが、掲載されていたのは海外の名作短編が多かった。ロバート・シェクリーやらフレデリック・ブラウンやらクラークにハインライン。そして星新一さんとこれらの作品群の共通点に気がつきました。言われてみて初めて、成る程!と思える奇抜な発想と、その奇抜さの物語の果てに待ち受けている予想もできないオチです。海外のSF名作短編をわかりやすい言葉で短いページ数にまとめると星新一さんのショートショートになるのではないか。かくして、私はSF短編と星ショートショートの面白さにのめり込んでいったわけです。さて、この頃は今で言う厨二病まっただ中にあったわけです。面白いマンガに出会い、熱中すると、このくらいのマンガなら自分にも描けるのではないか!そう思い込んで、Gペンやら黒インクやら模造紙やらを買ってきてマンガを描き始めたものです。このときは、とりあえず8ページのマンガを描き上げ、あまりの才能の欠落っぷりに絶望して、マンガ道具全てを捨ててしまいましたが。厨二病はマンガだけでなく、小説でも発病したわけで。ただ、通常の海外短編は量も結構ある。原稿用紙数10枚の短編を描く根性も自信もない。しかし、名作海外SF短編(!?)なら自分にも書けるのではないかという思い込みが、私の脳裏で沸々と煮えたぎっていたのでありました。ただ、途中まで書いていて、中学生だから途中で書くことに退屈してしまうのではないか?という恐れが生じ。ならば、どうすればいい?と、いうことで、名作海外SF短編(!?)を書くことを一時棚上げして、「ショートショートなら短いから僕にも書けるにちがいない」と挑戦したのです。書いた。書いた。良くもこんなに書けたものだと自分で感心するほど。ショートショートは数枚から15枚くらいの長さですが、そのようなルールはおかまいなし。原稿用紙1枚もないようなものから、2~3枚のものまで、何作書き散らかしたかわからないほど書きました。今思えば、よくもあれだけのショートショートを書いたな、という感想。だからといって傑作を書いたわけではなく、量を書いたということ。数年前に、その頃書いたショートショートが机の隅から出てきたことがありましたが、熊本弁は混ざるは、1人称が突然途中で3人称に変わるは、誤字と脱字だらけだし。ひどいものです。しかしひたすら書き続けたことが効を奏したのでしょう。好きこそものの上手なれと言いますか。なんとなくショートショートの書き方は獲得した気分になっていたのです。ただ、普通の短編とショートショートは大きく違う。ショートショートはプロット優先で結末になだれ込むものだという気がします。だから、どの結末を選択するかで、途中の経過でひたすら注意を払った書き方をします。
 短編「美亜へ贈る真珠」以降はあまりショートショートを書かなくなったなぁ。今回は久々にショートショートを書いているわけですが、しばらく書いていないから、登場人物に妙に心理描写を入れたり、短編の書き方になってしまう。スイッチが切り替わっていないんだなぁ。
 私、飛行機が大嫌いだと、このコラムでも書きましたよね。これから墜落しようとする飛行機の中にいる自分を想像すると嫌なんだよね。そう言ったら、家内が「墜落すると思ったら、残り時間でペンと原稿用紙を取り出してショートショートを書きなさい!遺作のショートショートなら、ひょっとして高く買ってくれるかもしれないし」と。次、飛行機に乗るときまでには、ショートショートの書き方のコツを思い出して、頭の切り替えができるようになっておかなくてはなぁ。

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