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Column - 2014.10.01

第119回 好評なので不思議スポット

「数ヶ月前の祖母山の話。本当ですか?面白かったけれど、少し恐かった」と、このコラムを読んだ方から感想をいただききました。
 ありがとうございます。
 あれは、嘘っぱちのフィクションです。
 このコラムは自由に何でも書いていいということになっているので、時には、あんな小噺を書いたりしています。頭から信用したりしないようにお願いいたします。
 もちろん、その方には申し上げましたよ。あれは、でっち上げのフィクションですって。その方は、「あんな、ちょっと怖ぁーって話は大好きなんですよ。嘘だろうとホントだろうと構いませんから、あんなのをお願いします」と仰言られました。
 そのとき、ふと思い出したことをつい口にしてしまいました。「あのう。田原坂の不思議な話とか聞いたことありますか?」
 すると「田原坂って心霊スポットだって聞いたことはあるけれど、詳しくは知りません。カジオさんは、ご存知ですか?」
「いや、そんなに怖ぁーって話がお好きならと、ふと思いついて言ってみただけです。でも。あそこも色々聞くんですよね」 すると、「うわぁ、知りたいです」」と。 じゃあ、今回は私の耳に入ってきた田原坂のお話を書きましょう。
 田原坂は西南戦争のときの激戦の地です。明治十年に西郷隆盛が起こした士族の反乱で、官軍と薩軍の攻防戦の舞台です。熊本市北区になります。いかに激戦だったのかは、当時に作られた俗曲「田原坂」でもわかります。
ー雨は降る降る人馬は濡れる、越すに越されぬ田原坂
ー右手(めで)に血刀左手(ゆんで)に手綱、馬上ゆたかな美少年
 西南戦争の古戦場として国指定史跡になっているほどです。
 で、いつの頃からだろう。四十数年前からこの田原坂あたりで、不思議な出来事が起こるという噂を聞くようになりました。私は、臆病なので、田原坂に肝試しに行ってみようとは思わないのですが、話だけは集まってくるのです。
 最初に聞いたのは、こんな話。田原坂へ真夜中、興味半分で出かけた男女が、農道を走っていると前方で人の気配がする。それでブレーキを踏んだら、目の前に髪を振り乱した侍が現れ、道の真ん中で両手を広げたそうです。そんな馬鹿な?!と自分の目を疑っていると、侍姿の刀を手に持った男たちが目の前を横切って行った。最後の一人が横切ると、目の前の侍もいなくなっていた、と。帰ったら女性たちは高熱が出て、数日間起き上がれなかった、と。
 その話を聞いて興味を持った少年少女たちが、そんなの怖くないもんね、と、真夜中に田原坂に向かった。で、四、五人が自動車を止めて、田原坂の周辺を歩き回って肝試しをしたらしい。すると、地響きみたいに大勢が歩いているような音が聞こえたらしい。それで、皆が恐怖に駆られ逃げようとしたら、一人だけいない。辺りを捜すと、その若者は細い道でうずくまって掌を合わせていたんだって。慌てて皆で自動車まで引きずって戻ると猛スピードで逃げ帰ったそうな。失踪した若者に、「なんで、あんなとこにいたんだ?何をしてたんだ?」と尋ねても、本人は何をしていたのか、何を見たのか、記憶が全くなかったそうです。で、その若者はその後、何もなかったそうですが、車を運転していた男性は体調を崩してしまったらしい。皆の前に再び現れたときは、何があったかわかりませんが、話をしても半馬鹿状態になっていたとのこと。それを聞いた他の若者たちが肝試しに......と、話がリンクしていきますが、似たようなのが多く、省略。
 それから、当時、田原坂公園に電話ボックスがあったのですが、これにまつわる話も多かったなぁ。この電話ボックスは屋根に馬に乗った少年の像がある特殊なものでした。で、この電話ボックス、入るときは問題ないのに、出ようとするとドアが開かなくなる。あるいは、公園で何かの視線を感じて、振り返ると少年の像がじっと睨んでいる、と。
 そして、いつの間にか、電話ボックスは消えてしまったそうです。これは、別に霊的な理由からではなくて、携帯電話が普及して、利用されなくなったのでNTTが撤去したということだと思いますが。 集まってきた噂話が事実かどうか、確認のしようがありません。戦没者が一万四千名の激戦のあった所ですから、どんな都市伝説が発生しても不思議ではありません。むしろ、都市伝説の成り立ちがわかるサンプルになる場所のような気がします。これらは伝聞の伝聞でこちらに伝わってきたものがほとんどですが、直接、私の先輩が体験した話をご紹介しておきます。
 その先輩の話、「友人が電話してきて、誰にも相談しようがないから、と。じゃあ来い、というとやって来た。どうした?と尋ねたら、田原坂に行ったら憑かれた、と。どうあるんだ?と問うと(肩の方を指差し)ここらにドヨーンっといるんだ、と。憑いている、と。そんな馬鹿なこと!と思って、言ってやった。オイ。こいつに憑くくらいな俺に憑いてみろ!と。そしたら、肩の上から、どーんと次の週間憑かれた。友人は、わあ、ありがとう。おかげで軽くなった、と、さっさと帰ってしまった。その後、帰れとか、離れろとか頼んだけれど、効果はなくて、結局、専門の人に浄霊してもらった。除霊だと、すぐに寄ってくるから、浄霊でないといかん、と言われてね」
 この先輩は、霊とか非科学的なこととか、全く縁がない硬派なので、すごく記憶に焼き付いています。田原坂の謎も案外根が深いかもしれません。

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