Columnカジシンエッセイ

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Column - 2016.07.01

第140回 ただいま復興中!

 早いものです。
 震災が4月中旬でしたから、もう2ヶ月以上経過したのですね。
 震災から数日のことを思い出そうとすると、あれは夢だったのではないかという想いになるほどです。
 わが家の塀は崩れ、土壁は落ち、柱には亀裂が走り、家屋そのものが歪んだままです。そっと廊下にパチンコ玉を置いてもコロコロ転がり去ってしまします。もう、この家に住むのは無理か、と思いました。
 一応、念の為に業者の方に元の状態に復元できるかどうか見積もりをお願いしました。
「柱を入れ替えて、家の歪みを修正して、土壁を塗り、畳を替えて、屋根瓦を積み直して、だいたい3,000万円というところでしょうか?」
 目玉が飛び出しました。わが家は木造で、とにかく古い民家です。昔から幽霊が現れていたほど。シロアリに何ヶ所も侵食されていますし、台風のたびに、おろおろはらはらの家屋です。今回の地震の修繕を全て終えたところで、秋の台風でダメージを受けるリスクにも脅えなければならない。
 3,000万円の被災か。へなへなと膝が崩れ落ちそうになりました。
 頭が真っ白になり、とにかく、半壊したわが家の後片付けの日々を過ごしました。家財はほとんど泥まみれ。壁土が落ちたからでしょうねぇ。電気製品も壊れてしまっているなあ。昼は災害ゴミをまとめ、水を求め、夜は娘のところに行き、限られた食料で生活をするという日々でした。娘一家とともに、計6人が狭い場所で長いこと生活しましたよ。しかも、ガスが出ない。水道も出ない。風呂も入れない。サバイバルとは、こういうことなんだなあ、とがっくりきました。しかし、家族全員が無事ということで"どぎゃんかなる!"という妙な高揚感も生まれました。狭い空間で毎日過ごしていると「人間、贅沢しなければ、これで十分生きていけるんだ。これまでなんと便利な生活を享受していたんだろうなあ」と考えるようになります。
 後片付けの日々は、自分の人生を振り返る機会になったなあと思います。
 さて、私は60年以上をこの家で暮らしています。
 だから、片付けていて、掘り出される(!)層で、いろいろな世代の自分自身と再会できるのです。書庫の奥からは小学校に入る頃買ったマンガ本が大量に出てきました。手塚治虫さんのマンガは当然記憶していましたが、三木一楽さん画のH・Gウェルズ「宇宙戦争」が出てきたのは驚きました。いかに、この話が好きだったのか。続いて出てきたのは小学2年生の夏休みに書いていた絵日記。
 数十年前に時間旅行ですよ。小学2年生の頃、何をやっていたかと問われても何も思い出せない、浮かばない。ところが、自分の絵日記を読み直したら、書いたときの出来事がさっきあったことのように蘇ってきました。これはタイム・トラベルだな、と。そして、母の部屋の片付けを始めたら、今度は私の小学校の通信簿が出てきた。あわ、あわ、あわ。
 こんな風だから、全く片付けが進まない。今は、「とにかく棄てる!迷ったら棄てる!断捨利!断捨利!」が合言葉です。
 とにかく、自家用車で出かけたら大渋滞に捕まるので、1日にやれることがほとんどできなくなる。だから、出かけるときは歩くのが一番速い。渋滞している原因は、道路が方々で通行止めになっていることと、救急車輌、災害支援車輌が全国から集まってきていることでした。ほとんど動かなかったものなあ。家が倒壊したり地面に亀裂が入ったり液状化していたり。方々にコーンが立ち黄色いテープが貼られて、「近づくな。落下します。キケン!」と書かれています。仕事場に行くときも、いつものルートでは通行禁止だらけ。直進、通行止め、左折、通行止め、まるで、熊本市内があみだクジになっているようでしたよ。
 この頃、一番印象に残っているのが、頭上で飛び交うヘリコプターの爆音です。自衛隊の救援活動とマスコミ。携帯電話で話していても、爆音で聞き取れなかったなあ。
 風呂に入れなくて辛かったのですが、熊本市北区植木温泉の数カ所が被災者向けに入浴無償されているというので、朝4時からでかけていました。さすがにこの時間だと、渋滞に巻き込まれません。
 そして私は、温泉の帰り、車に追突されましたよ。泣きっ面に蜂だなと思ったのですが、これは私に限ったことではないことを知りました。阪神淡路地震のときのデータからも、震災後は交通事故が1.3倍増えるのだそうですよ。そんな心理状態になるものらしい。
 遅々とはしていますが、復興作業は継続中です。まだ、話は尽きません。
 さて、わが家の運命は次回で。

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