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Column - 2025.02.01

第244回 呪いのショートショート

定期的にショートショートを書いている。ショートショートというのは、枚数の制限はないものの、できるだけ少ない文字数で不思議で奇妙なストーリーを語る…と言えばよいのだろうか。加えて、予想できない驚きの結末であれば理想的だ。
定期的に書いていれば慣れたもので、机に向かえばスルスルと面白いものを書いて担当編集者に渡しているのだろうと思われるかもしれない。確かに、調子がいいときは、何の苦労もなくアイデァが湧いてくるし、展開も浮かんでくる。それに、結末も天から降ってきたみたいな冴えたオチになる。
念のため、もう一度言っておく。これはあくまで調子のいいときに限られる。
調子の悪いときは、七転八倒の苦しみだ。締切りの時間が迫るというのに何も思い浮かばない。きつく絞った乾き雑巾のようなものだ。一滴もアイデァが湧いてこない。
いくつかのショートショートの書き方のノウハウを紹介したものを目にしたことはある。頭に浮かんだ単語を手当たり次第に紙に書き、関係なさそうな二つの単語を結びつけてみて、そのイメージを拡大させてみなさいというもの。連想に連想を重ねると、そこからお話が予想外の動きを見せてくれることがある…とある。その通りにやってみた。本当のことかどうか。
出来なかった。いや、連想することは出来るし、ショートショートに似たものが生まれてきそうにはなるのだが。
何かちがう。面白くない。
自分でショートショートを人よりたくさん書いているのでわかるのだが、そこから生まれそうになるものは、私の好みとは、まったくちがう。そんな自分でも気にいらない発想のものを作品化したくはない。筆も動かない。望むのは書き上げた瞬間にガッツポーズをしたくなるような作品だ。
このままじゃいけない、と相談することにした。相談するのは、読書好きの友人だ。ショートショートに限らず、本であれば絨毯爆撃みたいに何でも読む。ビブリオマニアと言えばよいか。本に関して相談すれば、必ず、いい考えを出してくれた。
「何か、ショートショートのアイデァはないかなあ。面白くて斬新な…エッジの効いたの」
「俺は読む方だから、期待しないでよ」
「だけど、それだけ色々読んでるなら何かあるんじゃない」
彼は、真面目だから、考え込んでしまった。
「呪いのショートショートというのを聞いたことはないか?」
「ない。そんなのあるのか?どんな話だ?」
「いや、噂で聞いたんだけど、どんな話か実はよく知らないんだ。俺も読んでいない」
「なんか呪いのビデオテープを見ると呪われるホラー映画があったなあ。そのショートショートも読めば呪われるのか?」
「わからない。だが、ショートショートだから、あっという間に読めるそうだ。しかし、読み終えたという者に会ったことがない」
「それは読み終えた途端に呪われてしまったということかもしれないな。どこで、その呪いのショートショートを読むことができるんだ?」
「どこで読めるのか知っているなら、とっくに俺も読んでいる。呪いのショートショートを読めば、その呪いがどんな呪いか、わかるじゃないか。実在するかどうかわからない」
「ということは、都市伝説みたいなフェイクかもしれないな。どう思う?で、何が言いたい?そう言えば、最高に怖いホラーで、“牛の首”というのがあるが、怖いだけで誰も内容を知らないのだから、実在するホラー話かもわからない。その呪いのショートショートをどうやって探せというんだ?」
友人は悪戯っぽく顔を歪めて笑った。
「探すんじゃなくて、書いてみろよ」と言った。「え゛ーっ!!!」
「読んだら必ず呪われるショートショートなんて、そんなものがあるとわかればSNSでバズるに決まっているだろう。どんな風に呪われるのか?その呪いからどうすれば逃げられるのか?抜け道はないのか?そんな興味もある。そして、何より呪いのショートショートの内容がどんなものなのか知りたいだろ。実在するとなれば。実在するかどうかわからなければ書いてみればいい!そうすれば、出来上がったら実在することになるんだから」
「そりゃあ、どんなショートショートを書けばいいんだよ。言われっ放しで書けと言われたところで、何を書いていいか、わからないじゃないか!」
彼は無責任にも、こう言い放つ。
「そりゃあ、作者がでっちあげればいい。どんな内容かなんて、俺には関係ないことだ。ただ呪いのショートショートが実在したという事実がすごいことなんだから。善は……いや、呪いは急げ!すぐ書け。俺の目の前で」
仕方なく、目の前に原稿用紙を置き、タイトルを書いた。
「呪いのショートショート」
何も書きようがないが、何とか文字を埋めなければならない。仕方がないから、ここに至った経緯を、ありのままを書きつらねることにした。もうすぐ書上げる。そして筆が止まる。ショートショートで一番大事なオチ。
思いつかない。
筆が止まってしまう。書上げたと思った友人が原稿に手を伸ばしたのだ。
「いや、まだだ。書いてる最中だから」と叫んだが、遅かった。
ショートショートを読み始めた。そして……友人は呪われた。
「なんと、寒い結末」と叫び、倒れ込み亡くなってしまった。
あまりにも寒い結末で全身カチカチに凍死してしまったのだ。
完成していたのか。
読み返してみるか…いや、書いた本人まで呪われてしまう……。
これを読んでいるあなたも、寒気がするのではないか?それは……きっとこのショートショートの呪い。

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