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News - 2021.12.01

第206回 お元気ベルト

 腰痛に悩まされ、病状は悪化して歩くこともままならない。杖をついて凌いだが痛みは進行して、最悪の場合は車椅子のお世話になる。
 結果、他に方法はないと手術を受けた。三週間入院してリハビリを受けて、やっとよちよち歩けるところまで改善した。退院。
 二度とこんな目には遭いたくない。
 あとは気長に回復を待つしかない、とも思うが、生活をしていくためには仕事に行かなくてはならない。
 会社の連中も「まだ、本調子じゃないようですね。無理しないでくださいよ」と労ってくれる。「腰つきが本物じゃないですよ。見ていて心配になってくる」と。そんなことはわかっている。だが早く仕事に戻らないと。友人たちも、酒に誘うのを遠慮しているようだ。
「大丈夫かよ。山歩きも誘えないよなあ」
 うん、時が薬かなあ。ぼちぼち慌てずに元気を取り戻していこう。そう考えることにしている。
 友人たちは、それはよかった。頑張れよ。焦るなよ。と言ってはくれるものの、その目は私を憐んでいる。
 リハビリのつもりで近くの公園まで散歩してみる。手術後めっきり筋肉も落ちてしまった。まず筋肉を取り戻さなくては。
 自分の気持ちがうまく自分の身体に伝わらないもどかしさを、このとき十分に味わった。歩き始めはなんとかいいものの数十メートル歩くと軸足がふらつき始めるのが自分でもわかる。一歩でふらっ、左足出してふらふらっ。右足出してふらふらふらっ。
 しかし、いいこともある。酒は入院中はダメだったが、やっと許しが出て外飲みができるようになった。
 友人と飲んでいて同情される。
「そうか。それは可哀想だ。そういえば、先日、深夜のテレビ通販で『お元気ベルト』の紹介をやっていたなあ。あれは、お前にいいんじゃないかと思うよ」
「お元気ベルト……なんだい、それは。腰にいいのか?」
 問い返すと友人は頷いた。確かに『お元気ベルト』とネーミング聞いただけで腰に元気が湧き出てくる気がする。
「名前を聞いただけで効果がありそうだとは思わないかい?着けるだけで効果があると言っていたよ。真剣に聞いていたわけじゃあない、ながら、で聞いていたんだが。そうだ。病気見舞いしていなかったから、その『元気ベルト』とやらをプレゼントしてやるよ」と言い出した。
「いいよ。いいよ」と断ったにもかかわらず数日後には宅急便が届いた。友人は約束を守ってくれたのだ。中に入っていたのは『お元気ベルト』だった。一見普通のベルトだが幅が少し広い。ズボンの下に着けるようだった。出勤時間が迫っていたが、1日元気で働けるなら。お元気ベルトを着けてみよう。ぐるりと腰に巻く。
 カチッと嵌まる音が小気味良かった。
 果たして。元気になるのか?と思ったがなかなか元気になれない。おかしいな。するとベルトにいくつかスイッチが付いている。電源がオフになっている。そうか、これをオンにしなくては。どうなるんだ?
 電源を入れた。ウィーンと音が響く。動き出すのか?
 ヒクッと腰から下が動く。わ、わ、わ、わ。リズミカルに腰が何ども前に突き出される。足は動かない。上半身も動かない。
 腰から下だけがリズミカルに前に突き出されるのだ。そして引ける。どんなリズムかというと。クイッ、クイッ、クイッ、クイッ。
 鏡の前に立つとその動きはかなり卑猥だ。真面目な表情でいても他人から見れば変な奴と思われるだろう。外そうとしたが外れない。仕方ない。会社へ行かなくては。
 歩きながらクイックイッと腰を突き出すと、女の人がキャーと言って逃げていく。逃げていかない人は立ち止まって笑いを隠しきれない。助けてほしい。何が『お元気ベルト』だ。外したいのに外れない。
 会社に着くと皆から注目される。女子社員からはあからさまに顔をしかめられ「やめてください。そんな卑猥な動き」
「し、仕方ないんだよ。このお元気ベルトが止まらないんだ」
「スイッチを切ればいいではありませんか!」
「それが、ベルトも外れないし、スイッチも切れないだ」なんと恥ずかしい。
 他に策はないと、贈ってくれた友人に電話する。
「ええっ。そりゃすまんなあ。そんなにいやらしく動くんか。いや、俺は自分で着けたことないから、ようわからん。しかし、本当に他にボタンとかないのか?」という頼りなさ。
 トイレに行き、よくベルトを見ると……あった。
 モード切り替えスイッチ。これで卑猥な動きから解放される。スイッチを切り替えた。ベルトから変な音が。そして前後にひくひくと動く猥雑な動きが止まった。良かった。ほっと胸を撫で下ろす。だが、音が変わる。あ、あ、あ、この動きもいかん。私の股間を中心に、尻が円を描くように動き始めたのだった。誰か止めてくれ。女子社員はウィーン、ウィーンと回転する私の腰つきを見て逃げ惑う。
「助けてくれ!ベルト切ってくれ」見かねた同僚が巨大なカッターを持ってきてベルトを切り、やっと卑猥な動きは止まった。友人に苦情を言い、経過を話す。
「ごめん、ごめん」その後友人からまた品が届く。
 開けると今度は『絶倫ベルト』

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