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News - 2023.03.01

第221回 巨大宇宙船の災厄

巨大宇宙船は使命に燃えて未知の惑星に着陸しようとしていた。
「この惑星は文明は発達していませんが、確かに知性を備えた生物が生息しています」
「おお。では我々の技術を伝授してやろう。彼らは飛躍的に文明を発達させることになるだろう」
「我々に感謝することになるでしょうね。神が知恵を授けてくれたと思うかもしれませんね」
「どう思われてもいいさ。さあ、着陸だ。どのような生物たちだろう」
銀色の紡錘体の宇宙船は、ゆっくりとその惑星に着陸した。直後に激しい振動が。

「こりゃあ、なんだべぇ」と銀色の物体をつまんで男は頭をひねった。見たこともないものだ。男は、その物体を、周りの連中に尋ねてまわる。「不思議なもんだね」と女も目を見張った。「植えてみりゃあ、わかるで。なんかの種子だと思うが芽を出さなきゃ正体がわからんが」「そうかぁ、なんかの種子か。そりゃ楽しみだね。うまく育ちゃあええが」
畑の真ん中に、その種子は植えられた、もちろん、それは異星からこの星を訪れた巨大宇宙船なのだが。土中に埋められて肥やしをかけられ土は踏み固められた。

巨大宇宙船の内部はパニックだった。その惑星に到着するやいなや、惑星の生命体に掴みあげられたのだから。
「我々がこの宇宙船に乗っていることを伝えろ」「送信していますが、彼らは受信できる技術をまだ持っていません」「音だ。大音量で話しかけろ」「やりましたが、彼らの耳には音が小さすぎるようです」「うわっ!彼らは何をするつもりだ。この宇宙船を埋めるつもりなのか!」「埋めてどうしようというのでしょう。あっ。翻訳機が‥‥彼ら、この宇宙船をなにかの種子だと思っているようです」「光らせろ。あるいは熱を」「間に合いません。埋められてしまいました」「なんとか脱出する方法を考えるんだ」
時はすでに遅く、巨大宇宙船は土中深く埋められてしまっていた。
「とにかく、この宇宙船を脱出させる方法を考えよう、彼らの知性を向上させて宇宙船を救出させるというのはどうだ」
「幸い、これは世代宇宙船ですから。何世代もかければいつの日か」
そして宇宙船内部でさまざまな技術が開発される。初代の乗組員はいなくなり、その孫の代も過ぎる。そして、一つの可能性に辿り着く。宇宙船の表面を有機性に変え成長させる。そうして地上に出て、この星の生命体に助けを求めるのだ。自力での宇宙船脱出には限界がある。それが最善の方法と思われた。宇宙船の表面は有機生命化し、そして成長し始めた。その先端は、やがて地上に到達した。

「あんれまあ。この間の奇跡の種子から芽が生えただよ」と男は声を上げた。
「ほんとねぇ。でも芽も不思議ねぇ。銀色の芽だわ」女も驚いたようだった。
「もっと成長すればあれがなんの種子だったかわかるだよ。それまで近づいちゃなんねえ」宇宙船からのびた蔦状の先端を見て、この星の知的生命体はおっかなびっくりの様子だった。

その様子は、地上にでた宇宙船先端から本体の乗務員たちに伝わる。
「問題はこの惑星の住人の知性が圧倒的に低いことだと思われます。ここに宇宙船があるなぞ彼らの概念では想像もできないことでしょう」
「方法は一つだな。彼らに知性促進剤を与える。そうすれば我々の存在も認知できるようになるのではないか」
「そうですね。すぐ実行に移します。有機化した宇宙船先端に、知能促進剤を送ります」

銀色の芽はどんどん成長を続け、銀色の枝のように変化した。そして、そこに、まるで果実のような形の知性促進剤が出現した。
「あれぇ、実がなったわ。おいしそう」
「食っちゃなんねぇ。こんな銀色のもの。そうだ。こりゃあ、禁断の樹だ。そして、これは禁断の実だ。こんなもの喰ったら、神様のバチが当たるぞ」
「そうなの。ほーくわばらくわばら」

「なんだ。用心して、知能促進剤を喰ってくれないぞ。どうしたもんかねえ」
「彼らの思考部分に私が呼びかけてみます。そうすれば安心してくれると思います。幸い私たちの姿はこの星にいる生きものにも似ていますし。上半身にものを握る突起もない、立って歩く突起もない生きものに。彼らは“ヘビ“と呼んでいるようですが、親しみやすいかと」

この星の女の思考に宇宙船乗組員の一人が呼びかけた。「あの知能向上剤を齧りなさい。目が眩むほどおいしいですよ。頭も良くなりますよ」
女はその呼びかけに応じた。そんなにおいしいなら。一口ガブリ。ほんとうだ!おいしい!女は男に教えた。「これ、おいしいべ。食べてみたらえぇ」男は、前は禁断の実と言って拒んだくせに、やはりパクリ。しばらくして知能が向上した女が「まあ、私たち、裸じゃない。なんて破廉恥なの」「お、俺も破廉恥だべか。イブの言うこと聞いたら、とんでもねぇ」「アダムも一緒だべ!」
それ以上、彼らの知能は向上しなかったので、地下に埋もれた巨大宇宙船は、そのまま朽ち果ててしもうたと。

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