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News - 2024.12.01

第242回 息子にサンタがやってくる

 クリスマスと言えば、子ども達にとってはサンタクロース。夜空を駆けて全世界の良い子のためクリスマスプレゼントを届けにくる。そう、私も子どもの頃は信じていた。
 実はサンタクロースなんて存在しないということを知ったのは、何歳のときからだっただろう。プレゼントは父親や母親が夜中に、そっと置いてくれるものだと友達の誰かから教えられたためだ。
 そのときは衝撃だった。会ったことがなくてもサンタクロースは太ったお爺さんで白髭ふさふさの真っ赤な服を着ている人だと思っていた。
 しかし、大人になった今でも、自分が子どもの頃にサンタクロースを信じていたことは厭ではない。それどころか、自分が、サンタクロースが大好きだったと考えると心地よくなる。
 あの頃の自分は、どんな少年だったのだろう。そう考えると、何だか甘酸っぱいものを感じてしまう。
 そんな私も、今では人の親である。やっと息子は言葉を話し始めた。そして、もうすぐクリスマスだ。
 息子に私はとっておきの話だ!と語ってやった。
「良い子にはクリスマス・イブにサンタクロースが素敵なプレゼントを持ってきて、靴下の中に入れてくれるんだよ。すごいだろう!楽しみだろう!でも、良い子にしていないとサンタクロースは来てくれないんだ。さあ、ぼくは何が欲しい?パパがサンタクロースにリクエストの品を伝えておいてあげるから」
 私はサンタクロースの画も見せた。ソリに乗ってやってくる真っ赤な服のサンタクロース。大きな袋からあふれんばかりのプレゼントがのぞいていた。
 ところが……やっと喋れるようになった息子の口から出たのは…。
「ばぶ……サンタクロース?パパは、そんなものを大人のくせに、信じているんでしゅか?笑わせちゃいけませんでしゅよ~そんな子どもだましを信じちゃうなんて~。サンタクロースなんて、ホントはいないんでしゅよ~。ばぶ」
 私は愕然とした。こんな幼い子が夢もなく、育とうとしていることに。サンタクロースが来てくれるように、良い子になろうと努力するようになってほしかった。息子は新聞で株式急騰銘柄にペンでチェックを入れながら「ばぶ。投資は早くからやった方がリターンも多いんでしゅ」と言ったりする。何と夢のない子なのだろう。色々と考えてしまう。
 そうだ。息子に本当のサンタクロースを見せてやれば、普通の子らしく、サンタクロースを信じるようになるのではなかろうか?しかし、本物のサンタクロースは存在しないということは私も知っているし……。困った。
 誰かにサンタクロースに化けてもらうしかないか。色々、考えた。でっぷり太ったふくよかなお年寄りで、大きな袋を持っている人。
 何人か、候補を思いついたので頼みに行く。
『七福神神材派遣会社』だ。
「あのー、派遣して頂きたい神さまがいるんですが」
「誰がよろしいでしょう」
「十二月二十四日の夜に。大黒さまか布袋さまをお願いしたいのです。体型も同じだし。大きな袋をお持ちなのでサンタクロースになって頂きたくて」
 担当者はスケジュール表を見た。「大黒さんはその日、因幡の白ウサギの所へ出掛けて無理ですね。布袋さんは空いてます。大丈夫ですよ。いいですか?」
「はい。では布袋さまを派遣してください」
 そして、クリスマス・イブ。わが家に布袋さまがやってきた。でっぷりした彼に赤い服を着せて髭をつけたら、立派なサンタクロースのできあがり。
「では息子さんの前で、私がサンタクロースを演じればいいんだね。お安い御用だよ」と布袋さまは嬉しそう。
「で、こちらでプレゼントを用意しているので、これを渡してください」
「はい。わかった」と布袋さまは私が用意したプレゼントを左手に持つ。右手には布袋さまの大きな袋が。どこから見ても布袋さまは立派なサンタクロースだ。
 夜も更けた頃、布袋さまは息子の部屋に入っていった。私もドアの隙間から様子をうかがう。まだ息子は起きていた。布袋さまを見て驚きの声をあげた。布袋さまはサンタクロースになりきり「ホーッ。ホッ、ホッ。良い子にしていたかね。これはサンタクロースのプレゼントだ」
 息子は目を輝かせた。
「ほんとにサンタクロースはいたんだ!サンタさん、ありがとう」それから息子は予想もしない行動をとった。
 貰ったプレゼントを置くと、そのままサンタクロースの布袋さまに飛びついた。
「ねえ。まだ世界中の子ども達にプレゼントを渡すんでしょう。僕に、もう一つくれてもいいでしょう」
 息子は言うが早いか、布袋さまの袋を取り上げ開く。布袋さまも私も大あわて。
「これはプレゼントの袋じゃない。布袋が持っているのは堪忍袋なんだ。皆が堪え忍ぶこと、病気、不満、飢餓、愚痴、怒り、嫉妬、憎悪が詰まっているんだよ」
 そう言ったときはすでに遅く、息子の部屋は堪忍袋の中身がすべて飛び出していた。息子は口をあんぐり開いたが、時すでに遅く、部屋はとんでもないことに。
 部屋だけではない。その瞬間、世界中に…考えつく限りのマイナスの心が、ありとあらゆる所へ飛び散ってしまったのだ。
 「とほほ」と布袋さまは嘆く。しかし、「おや」と袋の底を覗き込んで布袋さまは言った。「何やら小さな光る石が残っているぞ。これは…希望だ」



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くまもと文学・歴史館 収蔵品展番外編
「あなたにも書ける!!カジシンのショートショートの書き方講座」

【参加無料】【要申込(先着順)】【定員100名】

〈日時〉
12月21日(土)午後1時30分から午後3時

〈場所〉
熊本県立図書館 3階大研修室
熊本市中央区出水2-5-1

〈講師〉
梶尾真治

〈お問合せ・申し込み先〉
くまもと文学・歴史館
096-384-5000(代)
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