第135回 ポスト・恵方巻き
2016.02.01
一度このコラムでも扱いました恵方巻き。私が不幸のどん底に突き落とされたというお話でしたが、覚えておられますか?
その年の恵方を向き、のり巻きを丸ごと一本食べると縁起がいい、というのが恵方巻きの由来です。そして、いつ食べればいいか、というと、節分に食べる。
その年は、節分が日曜だったので、山へ登りました。360度見渡せる頂上で、コンパスで恵方を確認してから、一言も話さずに(ここ大事らしい)のり巻きを食べたのです。
ところが。
下山して、自動車まで数メートルというところで転倒。小指を骨折してしまったのでした。あれから、恵方巻きイコール小指骨折という忌まわしい記憶が私に刻まれたのでした。
以降、一度たりとも呪われた恵方行事はやっていません!昔であれば、節分といえば豆まきくらいでしたが、今は正月明けとともに恵方巻きの予約を方々でやってますものねぇ。十年前までは、恵方巻きの存在さえ知りませんでしたよ。
どこかでバレンタインまでの消費者操作の陰謀が働いているだな。
そう思い当たって考えてみました。
ふと思い出したことがあります。動物行動学者のドーキンスが言いだしたミームという概念です。
動物が肉体的に進化していくように、情報も進化するという考え方といえばいいのかな?音楽や言葉が流行るのは、心の中のミームが拡散していくからだ、というものです。
ミームをどう訳すとしっくりくるのかわかりませんが、模倣子という訳もあったりしますね。強いミームというのは、強い伝染力を備えたものだということです。ある時代を迎えた途端、爆発的な伝染力をしたりするのもあるでしょう。
一番最初に思いつくのは都市伝説ですかね。子どもたちの間で、テケテケや人面犬、そして口裂け女の存在があっという間に日本中に広がりました。しかも、これはテレビやラジオなどのマスメディアではなく、口コミという一番原始的な伝達方法で拡散繁殖したものですね。インターネットなど、まだ存在しない二十世紀のことですからね。いかに、伝達力の強いミームだったかということですね。子どもたちの口コミの力の強さは、昔からですね。幕末のおかげ詣りも、強力ミームのひとつということができるのではありますまいか。
どうも、このミームを人工的に生み出し、利用するシステムが最近開発されているのではないかと思えてなりません。
十数年前までは、日本では縁がない遠い国の風俗であり習慣であったものが、伝染力の強いミームとしてこの数年で拡散したものがあります。
ハロウィンです。
ケルトの祭りで悪霊払いの日。キリスト教徒も距離を置いていたイベントですが、アメリカでは子どもたちに大人気で脈々と続いていました。お祭り好きのアメリカ人の間では、仮装イベントとしていつの間にか大人も巻き込んで発展していたのですが、ある時を境に、ハロウィン・ミームが日本にも入り込んだようですね。カーペンターのホラー映画「ハロウィン」やハロウィンが物語に登場する「ET」が上映されても、日本では、ハロウィン?何それ?という受け取られ方だったのに。
三年前くらいからですよね。ハロウィンのコスプレが若者の間で爆発的に広がったのは。
それまで、全く増殖しなかったハロウィンのミームが拡散したのは、理由があるような気がします。
先にも書きましたが、恵方巻きからバレンタインに至る手法をミーム・ウィルス培養法として確立し、ネット社会で効果的に操作している存在がある。
私たちが、いや消費者が気まぐれで、何事にもすぐに飽きてしまうようになっているということです。昔ならクリスマス、お正月からバレンタインでよかったものが、イベントに集中できる時間がやたら短くなってしまっている。だから、クリスマスの前にハロウィンを入れこみ、お正月の後に恵方巻きイベントを押し込んで、バレンタインというミームを小刻みにばら撒くということでしょう。
さて、私たちがもっと気まぐれで飽きっぽくなれば、もっとイベントが必要になってくるでしょうね。次は何かな、と予想してみたら、ありましたよ。
節分お化けというイベントです。
日本では、節分の夜に老婆が少女の髪型にしたり、少女が大人の姿をしたり、いつもと違うコスプレをして寺社詣りをすることをオバケと呼ぶそうです。昔、花街あたりでは盛んだったということで、これこそ日本のハロウィンではありませんか。次にミームをばらまく業界の方々が目をつけるイベントは、「節分オバケ」と睨みました。当たるか、どうか。